君を好きな理由
流れ的には、いつもの報告会と代わり映えもない医師会。
若干、新薬の効能についてうんちくがあったくらい。
終わると会場から吐き出される親父さま達の波。
その流れに添ってビルを出ると、ひんやりとした空気に眉をしかめた。
陽が出ているうちには気づかないけど、温暖差激しいな。
ともかく……博哉が迎えに来るとは言っていたけど、待ち合わせしていないし。
どうしようか?
と、思った瞬間、スマホが振動した。
「はい」
『終わりましたか?』
静かな博哉の声。
……やたらに静かなところからかけてきている。
「終わったけど……」
『では、迎えに行きます』
「場所解る? 教えてないけど」
『会社の付近だとは見当付きます』
「あ、そう」
とりあえず場所を教えてみると、
『ああ。1分かかりませんね』
「え。まじ?」
どこにいるんだろ?
キョロキョロしていたら、丁度出てきた牧野さんと目が合った。
「あれ、水瀬さん。お迎えは?」
「もう少しで来るそうです」
「ああ。そうなんですね。では、また次回」
「はい」
手を振る彼に頭を下げて、それからバタンと聞こえた音に振り返った。
どこか冷ややかな博哉。
……うん。何でか不機嫌だな。
「お待たせ」
「待ってませんよ。ドライブしてましたから」
「よくこの辺りだって見当つけたわね」
「伊原さんに聞きました。あれは誰です」
アレと呼ばれて指を指されて見えるのは、牧野さんの後ろ姿。
……えーとね。
「大学付属の心療内科医だって。私も今日、初めて名前を知ったけど、牧野さんって言うんだって」
「へえ」
「飲みに誘われたわ」
キラリと反射する眼鏡。
あらあら……
「嫉妬される程、仲良くはないわよ」
「……よく、解りましたね」
「や。今のは解りやすいでしょうよ」
溜め息をついて、ムニッと博哉の鼻をつまんだ。
「付き合っている人がいながら、殆ど初対面みたいな男にふらつかないから。そこは安心しなさいよ」
「……殆ど初対面みたいな男に、ねえ」
「うーん。含みまくるわね」
「俺は聖人君主じゃありませんから」
「私だってそうよ。約束もあやふやだったのに、飲みに誘われても“お迎えがあるから”って断ったしね?」
ニコリと笑うと、キョトンとされた。
……可愛いなぁ。
見た目はドーベルマンのくせに。
「なら、あんなに楽しそうに話してないで下さいよ」
ブチブチ言われて、今度は私がポカンとした。
「へ?」
見せられたのはスマホ。
画面には私の名前。
ちらっと手に持ったままの、自分のスマホを見て苦笑した。
博哉に繋がったままのスマホ。
牧野さんと私の会話が筒抜けだった模様。
「私だってたまには猫被るわよ」
「……猫、ですか」
「貴方、甲高い声でキャピキャピ話されるの苦手じゃなかった?」
前に、そんな事を言われたきがするんだけど。
「博哉には普通に話してるだけでしょうが。な、に、を、気にしてるの」
徐々に小さくなって……は、そもそも大きいから見えないけど、意気消沈しているのは解る。
「わざわざお迎えありがとうね」
「……いえ。勝手に来ただけですから」
「たまに女々しいって言われない?」
言った瞬間に、キリッと立ち直った。
「言われません」
「あ。そう。どうでもいいけど、私はお腹空いたわよー」
ちらりと見られて、ちらりと視線を返す。
若干、新薬の効能についてうんちくがあったくらい。
終わると会場から吐き出される親父さま達の波。
その流れに添ってビルを出ると、ひんやりとした空気に眉をしかめた。
陽が出ているうちには気づかないけど、温暖差激しいな。
ともかく……博哉が迎えに来るとは言っていたけど、待ち合わせしていないし。
どうしようか?
と、思った瞬間、スマホが振動した。
「はい」
『終わりましたか?』
静かな博哉の声。
……やたらに静かなところからかけてきている。
「終わったけど……」
『では、迎えに行きます』
「場所解る? 教えてないけど」
『会社の付近だとは見当付きます』
「あ、そう」
とりあえず場所を教えてみると、
『ああ。1分かかりませんね』
「え。まじ?」
どこにいるんだろ?
キョロキョロしていたら、丁度出てきた牧野さんと目が合った。
「あれ、水瀬さん。お迎えは?」
「もう少しで来るそうです」
「ああ。そうなんですね。では、また次回」
「はい」
手を振る彼に頭を下げて、それからバタンと聞こえた音に振り返った。
どこか冷ややかな博哉。
……うん。何でか不機嫌だな。
「お待たせ」
「待ってませんよ。ドライブしてましたから」
「よくこの辺りだって見当つけたわね」
「伊原さんに聞きました。あれは誰です」
アレと呼ばれて指を指されて見えるのは、牧野さんの後ろ姿。
……えーとね。
「大学付属の心療内科医だって。私も今日、初めて名前を知ったけど、牧野さんって言うんだって」
「へえ」
「飲みに誘われたわ」
キラリと反射する眼鏡。
あらあら……
「嫉妬される程、仲良くはないわよ」
「……よく、解りましたね」
「や。今のは解りやすいでしょうよ」
溜め息をついて、ムニッと博哉の鼻をつまんだ。
「付き合っている人がいながら、殆ど初対面みたいな男にふらつかないから。そこは安心しなさいよ」
「……殆ど初対面みたいな男に、ねえ」
「うーん。含みまくるわね」
「俺は聖人君主じゃありませんから」
「私だってそうよ。約束もあやふやだったのに、飲みに誘われても“お迎えがあるから”って断ったしね?」
ニコリと笑うと、キョトンとされた。
……可愛いなぁ。
見た目はドーベルマンのくせに。
「なら、あんなに楽しそうに話してないで下さいよ」
ブチブチ言われて、今度は私がポカンとした。
「へ?」
見せられたのはスマホ。
画面には私の名前。
ちらっと手に持ったままの、自分のスマホを見て苦笑した。
博哉に繋がったままのスマホ。
牧野さんと私の会話が筒抜けだった模様。
「私だってたまには猫被るわよ」
「……猫、ですか」
「貴方、甲高い声でキャピキャピ話されるの苦手じゃなかった?」
前に、そんな事を言われたきがするんだけど。
「博哉には普通に話してるだけでしょうが。な、に、を、気にしてるの」
徐々に小さくなって……は、そもそも大きいから見えないけど、意気消沈しているのは解る。
「わざわざお迎えありがとうね」
「……いえ。勝手に来ただけですから」
「たまに女々しいって言われない?」
言った瞬間に、キリッと立ち直った。
「言われません」
「あ。そう。どうでもいいけど、私はお腹空いたわよー」
ちらりと見られて、ちらりと視線を返す。