君を好きな理由
顔を出したのは相談役顧問。

見事な白髭を、にんまりとさせて入ってきた。

「定期検診は来月ですよね?」

具合が悪そうには見えないし、いつもお付きの葛西さんがいない。

「サボりじゃよ、さーぼーり。今頃は秘書達が右往左往してるはずじゃ。博和のところにおったら、見つかりそうになったもんでな」

博和……ああ、葛西社長。

そっか、社長と顧問は、叔父と甥の関係だったわね。

「そういう訳でな。紅茶を買ってきた」

ニコニコと2本の紅茶のペットボトルを差し出す顧問に苦笑を返す。

「せっかく採血で血糖値下がりましたのに……」

「年寄りは年中ガタガタしとるもんだよ。チョコレートも50パーセントとか言うのにしてるから、大目に見ておくれ」

茶目っ気たっぷりに言われて吹き出した。

「顧問。カカオ98パーセントと申し上げたはずですが?」

「それは忘れたことにしとる」

「…………」

その台詞。どこかで聞いたような気がする。

……さすが親族ねぇ。

感心しながら、ペットボトルを受け取ってお礼を言った。

「ところで、博哉とはどうなんだね」

「質問の意図が解りませんが?」

と言うか、誰それ……


博哉……博……


「あ。葛西さん」

「ちなみにワシも葛西さんじゃ」

にまにま笑われながら、顧問を見た。

顧問って、人をおちょくるのが好きよね~。
ある意味で一番偉いはずなのに、やっていることはガキんちょみたいな……

まぁ、だから私も気安くできるんだけど。


「どうもしませんけど」

「……博哉は正攻法を好むからの」

そう言えば、顧問の目の前でバラの花束もらったなあ。

「正攻法……と、言えるのでしょうか」

平日昼間のコンサートチケットで誘ってきたり、上役のいる前でバラの花束持ってきたり。

正攻法って言うよりは、常識はずれと言いますか。
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