君を好きな理由
「……詳しくは、また今度にしましょうか。ところで夏目さん」

博哉の声に、夏目さんが麺の湯切りをしながら振り返る。
温められた出汁の、少し香ばしい匂いと、微かに麺の小麦粉の匂いが混ざりあって辺りを包む。

「なんだい?」

「ラーメンは鶏ガラですか?」

「そうさね。うちは基本は鶏ガラ。後は昆布とちょいと魚醤だな」

「魚醤ですか?」

「……興味あるかい?」

「あります。魚醤は種類が豊富ですよね」


……私はない。


美味しければそれでいいよ。


盛り上がる料理人二人を眺めつつ、出された塩ラーメンに舌鼓を打った。

……これもデートのうちなのかな。
そうだと思うけど、楽しんでいるみたいで何より。

もしかして博哉って、思えばどんな場所でもスルッと気兼ねなく慣れるんじゃなかろうか。
順応するのが早いって言うか、でも自分は崩さないって言うか。

でも、色んな人を見ているのか、夏目さん博哉のデスマス調も気にせずに話し込んでいた。

そんな風にしながら、ラーメンを食べ終え、夏目さんにお礼を言ってから屋台を後にする。

博哉は新しい料理のレシピについて、彼なりに楽しそうに披露しながら車で送ってくれた。


それは何気ない、普通の付き合い始めた男女のデートの帰りに風景に見えたけれど。


まったく何気なくは感じない、爆弾発言をされた夜だったようにも思う。



















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