君を好きな理由
これからなのね?
*****
そんなわけで金曜日。
仕事終わりに待ち合わせをして、約束通りに博哉と焼き鳥屋に行くと、運良くまだ一杯目の吉田さんに会えた。
「おぉ。博坊。こっちこい、こっち」
空いている時間帯だからか、はたまたいつもの席だからか、4人がけのテーブル席で一人ビールを飲んでいた吉田さんが博哉を見つけて手招き。
「久しぶりだな。二人で揃ってるって事は、上手くいったか」
何となく楽しそうに、ハツを食べている吉田さんに呆れた。
「報告しに来いって言ったんですって? もう、勘弁してよ」
座りながら言うと、吉田さんはニヤリと笑う。
「いいじゃねぇか。フラれたらフラれたで男だけの宴会にすりゃいいんだから」
「……私が来づらくなるでしょうが」
「そりゃ仕方ないな。モテたはるちゃんが悪い」
「そういう事を私のせいにしないでくれる?」
「常連減らされたら困るよー」
大将が焼き場から苦笑して、それから博哉を見た。
「何にします?」
「……とりあえず、冷やで」
「あ。私はビールで!」
それから串をいくつか注文して、吉田さんがゴソゴソと懐から名刺を取り出した。
「どうも博坊のまわりにゃ、気楽に相談できるおっさんが居なさそうだからやっとく」
名刺を受け取った博哉が、少し驚いたように戸惑っている。
「……博哉、友達いない訳じゃないわよ?」
吉田さんは苦笑して、それから持っていた串を振った。
「男友達ってのは、なかなか複雑なんだよ。近い人間より、赤の他人だからしやすい話ってのもあるもんだ」
それを考えて納得した。
親しいからこそ、なかなか言えない話しというものが私にもある。
私の場合、たまに爆発して華子に迷惑をかけてきたけど。
逆に博哉の環境を考えてみると、赤の他人で相談できそうな年上の人物にあまり心当たりがないかも。
そりゃ、仕事面では先輩たちがいるだろうけど、プライベートな話になると磯村さんたち以外に親しい人は見当たらないし、唯一相談できそうな人と言えば相談役だろうけど、あの人は身内だし。
そもそも、敬語で話すような身内に相談も何も……
「吉田さん、大人ー」
「そりゃ当たり前におっさんだからなぁ。説教くさいのは得意だぞ」
ぼやくような呟きと同時に、ビールと冷酒が届けられた。
とにかく乾杯をして、からかい気味に祝福されると少し気恥ずかしい。
そのうちに朝月さんも顔を出し、相変わらず敬語の博哉を構いながら、吉田さんの名刺をもらった話に“抜け駆けだ”と騒いで自分の名刺を押し付けてきた。
お返しに、博哉も名刺を二人に渡して苦笑される。
「ふむ。この会社の“葛西”か」
「間違いなくいいとこの坊っちゃんだったか。お前」
二人に言われて博哉も苦笑した。
「ご存知でしか?」
「存じねぇよ。一介のサラリーマンがこんな大企業の社長と面識あるわけがないだろうが」
「そんな畑違いの会社でも、俺らみたいなおっさんだと、上場企業の社長の名前くらいは知ってるね」
それから二人でしみじみと“大変だな”を繰り返す。
意味が不明。博哉も少し困惑気味。
「親の七光りとか言われねぇか?」
「媚びてくる奴等もいそうだよな」
「まわりがそうだと勘違いする奴もいるが、お前真面目だなぁ」
「いるんだよなー。たまに親の威を借る若造が。それにしちゃ博坊は謙虚っつーか、普通って言うか。普通なら二パターンなんだけどなぁ」
「親に負けるか!って気張る奴と、親に甘えまくって当たり前の奴な」
おっさん二人に同情をかったらしい。
そうと気づいて、博哉が吹き出した。
そんなわけで金曜日。
仕事終わりに待ち合わせをして、約束通りに博哉と焼き鳥屋に行くと、運良くまだ一杯目の吉田さんに会えた。
「おぉ。博坊。こっちこい、こっち」
空いている時間帯だからか、はたまたいつもの席だからか、4人がけのテーブル席で一人ビールを飲んでいた吉田さんが博哉を見つけて手招き。
「久しぶりだな。二人で揃ってるって事は、上手くいったか」
何となく楽しそうに、ハツを食べている吉田さんに呆れた。
「報告しに来いって言ったんですって? もう、勘弁してよ」
座りながら言うと、吉田さんはニヤリと笑う。
「いいじゃねぇか。フラれたらフラれたで男だけの宴会にすりゃいいんだから」
「……私が来づらくなるでしょうが」
「そりゃ仕方ないな。モテたはるちゃんが悪い」
「そういう事を私のせいにしないでくれる?」
「常連減らされたら困るよー」
大将が焼き場から苦笑して、それから博哉を見た。
「何にします?」
「……とりあえず、冷やで」
「あ。私はビールで!」
それから串をいくつか注文して、吉田さんがゴソゴソと懐から名刺を取り出した。
「どうも博坊のまわりにゃ、気楽に相談できるおっさんが居なさそうだからやっとく」
名刺を受け取った博哉が、少し驚いたように戸惑っている。
「……博哉、友達いない訳じゃないわよ?」
吉田さんは苦笑して、それから持っていた串を振った。
「男友達ってのは、なかなか複雑なんだよ。近い人間より、赤の他人だからしやすい話ってのもあるもんだ」
それを考えて納得した。
親しいからこそ、なかなか言えない話しというものが私にもある。
私の場合、たまに爆発して華子に迷惑をかけてきたけど。
逆に博哉の環境を考えてみると、赤の他人で相談できそうな年上の人物にあまり心当たりがないかも。
そりゃ、仕事面では先輩たちがいるだろうけど、プライベートな話になると磯村さんたち以外に親しい人は見当たらないし、唯一相談できそうな人と言えば相談役だろうけど、あの人は身内だし。
そもそも、敬語で話すような身内に相談も何も……
「吉田さん、大人ー」
「そりゃ当たり前におっさんだからなぁ。説教くさいのは得意だぞ」
ぼやくような呟きと同時に、ビールと冷酒が届けられた。
とにかく乾杯をして、からかい気味に祝福されると少し気恥ずかしい。
そのうちに朝月さんも顔を出し、相変わらず敬語の博哉を構いながら、吉田さんの名刺をもらった話に“抜け駆けだ”と騒いで自分の名刺を押し付けてきた。
お返しに、博哉も名刺を二人に渡して苦笑される。
「ふむ。この会社の“葛西”か」
「間違いなくいいとこの坊っちゃんだったか。お前」
二人に言われて博哉も苦笑した。
「ご存知でしか?」
「存じねぇよ。一介のサラリーマンがこんな大企業の社長と面識あるわけがないだろうが」
「そんな畑違いの会社でも、俺らみたいなおっさんだと、上場企業の社長の名前くらいは知ってるね」
それから二人でしみじみと“大変だな”を繰り返す。
意味が不明。博哉も少し困惑気味。
「親の七光りとか言われねぇか?」
「媚びてくる奴等もいそうだよな」
「まわりがそうだと勘違いする奴もいるが、お前真面目だなぁ」
「いるんだよなー。たまに親の威を借る若造が。それにしちゃ博坊は謙虚っつーか、普通って言うか。普通なら二パターンなんだけどなぁ」
「親に負けるか!って気張る奴と、親に甘えまくって当たり前の奴な」
おっさん二人に同情をかったらしい。
そうと気づいて、博哉が吹き出した。