君を好きな理由
「ちゃんと用意して来たわよ」

「俺が……はるかの部屋に泊まる事も出来ましたが」

「……ううん。仕切り直ししましょ」

以前は付き合う前で、博哉は酔っぱらって寝てしまって、泊まるつもりもないのに泊まってしまったから。

今回は付き合い始めて、博哉も私も適度に酔っぱらっているけれど、泊まるつもりで朝から用意して来たわ。

気分も違えば、気持ちも違うものになるような気がするの。

「そういうものですか?」

「うん。たぶん」

「では、逃げられないように、早急に帰りましょう」

「逃げないわよ。失礼ね」

「どうですかね」

どうですかね、とは、どういう意味ですかね?

二人並んで何となく歩いていたら、いきなり荷物を取り上げられた。

「あの……だからね?」

「やはり重いですね」

「うん。色々入っているし……じゃなくて!」

「あ。バックを拉致してるつもりはありませんので。単にはるかの荷物はいつも重いから」

だから、もってくれるらしい。

「優しいのね」

「それはどうだか……人の荷物なんて持ったことはないですよ」

いや……だから……

なんて言うか、特別扱い?

私、特別扱いされてるってことよね?

前にも“お姫様”がどうのこうの言っていたよね。

……言っていたけど。


もう! そんなん恥ずかしいわー。


「……どうして顔を隠すんですか」

隠さないと照れてるのバレるでしょうが!

いや、すでにバレてる気もするけど、どんな顔でいろって言うつもりよ!
貴方、そういう事は聡いじゃないのさ!

「隠したいからよ!」

「……そんなものですか」

「そんなものです!」

「……女性の心理は難しいですね」

貴方に言われたくないわ!

空気を読め、空気を!


そんな風にツンケンしながら、歩き続けて、博哉のマンションに着いた。


いや。なんだか、緊張してきたのかもしれない。

何だか妙に心臓がうるさい。

オートロックの自動ドアを抜け、エレベーターに乗り込み、無言で博哉の部屋の前まで来る。

そこで博哉が困った顔をした。


「……あの」

「うん?」

「とって食いはしませんから、そんなに緊張しないでください」

「そ、そんなことはないわよ! 小娘でもあるまいし!」

「や。それもどうでしょう」
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