君を好きな理由
「正攻法じゃろ? 女性に花束を送ってデェトに誘う。まぁ、勤務時間中にそうするのが、多少わがままじゃが」

そもそも、勤務時間帯にそんな事をしているのは“問題”があるわけなんですけどね。

「決算が終わったところで、新入社員も慣れてきた頃合い。株主総会までは大変じゃろうが、ちょこまかと顔をだしとるそうじゃないか」

「…………」

なんだろうな。

これは、親族のいわゆる牽制かしら。

不用意に近づくなって言われてる?

でも、私から好きで近づいているわけでもないし、近づかせている訳じゃないわよ。
あっちが勝手に派手に動いているだけで、私には関係……無い訳じゃないけれど、やるべき事はちゃんとやっているわ。

「ああ。ちなみにな」

「はい?」

「ワシは博哉の応援にまわるからの」


回らないでください。


心の中で呟いて顔をしかめた。


「迷惑しとる顔じゃのぅ。博哉のどこがいけないかね。背は高いし、見てくれも悪くはない。まぁ、少し人見知りで無愛想じゃが、高学歴に高収入、相手に不足はないじゃろ」

「……決闘をする訳じゃありませんが」

相手に不足……って。

「それに、それだけのステイタスをお持ちであれば、逆に私の方が分不相応かと思うのですが?」

「何気に拒否られておるのう。しかも、随分と古くさい」

老人に古くさいって言われた。

「あんたも高収入高学歴になるじゃろうが。まぁ、見てくれも美女の部類だし、そのキツさが玉に傷じゃが、家族に犯罪者がいるわけでもあるまいし」

「……貶されてます?」

「褒めてるんじゃ。年寄りのひねくれくらい考慮せい」

そう言いながら、顧問はニコニコと笑っている。

「最近の若者は奥手で敵わないの。目の前に良い女がいるのに、どうして押し倒さないのかのぅ」

「それをやったら犯罪だからですよ」

「好いとるもの同士でもか?」

「あの。私は誰かを好いている訳ではありませんので……と、言いますか、恋人同士でも同意がなければダメですよ」

「素直な女なら苦労はせん」

「あら。私は素直ですよ?」

「だから、どこがダメじゃね」

「…………」

どうしようか、この老人。

他に楽しみでもあれば別なんだろうけど、楽しいことを見つけたら、飽きるまでつつき続けそう。

なんて答えようかな……と、考えていたら、

「……相談役」

ドアを開けて。困り顔の葛西さんを見つけた。

「決算報告書まで裁決されてませんので、雲隠れはよしてくださいませんか?」

ちらりと顧問を見ると、盛大に溜め息をついた。
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