君を好きな理由
思えば、歴代の彼氏も似たようなものだったわね。

呆れられるか、浮気をされるかのどちらかだったし。

あれは浮気だから許せよと、悪びれもせずに言う男の心理は解らないし。
飯もまともに作れない女と言われても、私は飯炊き母ちゃんのつもりはない。
会う時間もなければ、他の女に目がいくのは当たり前だろうと開き直られても困る。

それでも宣隆は優しかったし、大変な時は労ってもくれた。

だから、私を受け入れてくれているんだと思っていた。


思っていただけ……


今から考えてみれば、争うのが単に嫌で、親には逆らえなくて、なあなあで居たかっただけで……
私が勝手に勘違いしていた。

アイツは、奥さんが居ようが居まいが、私は気にしない女だろうと思っていただけ。


ぼんやりしていたら、博哉が指でテーブルを叩いた。


「さすがにソレと同一視されるのは断固拒否します。そもそもうちと九条家では状況が違いますからね?」

「…………」


どう違う?


真面目な顔をして眼鏡を指で持ち上げた博哉を眺める。


「うちは九条と違い、業績悪化している訳ではありませんので、時代錯誤な政略結婚は不要です」

ん?

「そもそも“何もしない”宣隆氏とは違い、兄は果敢ですから。そういう意味合いではうちは安泰です」

「はあ……」


九条家は傾いていたのか。

まぁ、豪勢な邸宅に住んでいたのは知っているけど。


会社経営の内情までは解らないわね。


「あちらは一人っ子ですが、うちは兄弟ですし、もし政略結婚するなら、それは兄の義務でしょう」

「いや。その断言はどうなの?」

会ったこともないけど、それはそれで可哀想って言うか。


「そもそも、うちに常時医師を置くことにしたのは父の判断です。貴女の経歴を調べたのも、貴女を雇うのを決めたのも父ですから、父が貴女の仕事を軽視するはずもない」

「や。それはどうかな。実はうちも身内のコネクション使ったし」


ここに来て初めて、博哉の眉が動いた。

「コネクション?」

「うちの親族にもいるのよ。女帝が」

「はるかに似ていると言う?」

「そう。と言っても、会社と親族とは別って考えの人だから今後どうだってこともないし、うちは立派なサラリーマン家庭なんだけど」

博哉は少し考えるような顔をしていたけれど、軽く肩を竦めただけだった。


「どちらにせよ関係ありません。父は実力重視ですから」


その発言は嬉しいかな。


「まぁ……」

「まぁ?」

「今度は宣隆氏と俺の相違点を上げていきましょう」


はい?
< 90 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop