君を好きな理由
穏やかかな?
*****




「はるか。そろそろお昼にしましょう」

博哉の言葉に顔を上げて時計を見た。

本棚の片隅にある、アナログな置時計は13時を過ぎている。

過ぎているんだけど。

今、ちょっと良いところなんだけどなぁ……

「後2行だから」

「そう言って、数ページ読むからダメです」

本を取り上げられ、キチンとしおりを挟むと返してもらった。

「ケチ」

「ケチで結構。こうでもしないと寝食を忘れるから丁度良いんですよ」


それは間違いないかもな。


最近の休日は、博哉の部屋に泊まって行く事が増えた。


それと共に、私の本も博哉の部屋に増えたんだけど……


「……やっぱりいつか床が抜けそう」

「引っ越しますか?」

冷やし中華を私の目の前に置きながら、博哉は楽しそうに微笑む。

……結婚がまだなら、先に同棲でもしますか?
と、言われたのは、かなり最近の話だ。

「……だから、それはさすがに早いと思うのよね?」

「まぁ。同棲であれば、多少うるさい人が増えますが」

同時に思い浮かぶ人は、相談役顧問の顔。


付き合うようになった事を喜んでくれて、次の瞬間には、

「どうしてまだ指輪しとらんのだ?」

と、不思議そうな顔をされた。


あのご老体は、人の色恋沙汰が楽しくて仕方がないらしい。


「やめておこう?」

「じゃ、指輪はめますか?」

「そのついでみたいなプロポーズは受け付けません」

「じゃ、結婚指輪は後にして、婚約指輪を……」

「今時、指輪を2つの人はいないでしょうよ」

冷やし中華にいただきますと手を合わせて、割り箸を割る。


「結婚指輪と言えば、山本さんから招待状届いた?」

「あ。はい。昨日届きました。チャペルで式を挙げるようですね」

「んー。どうしようかな。式に出席してもいいけど、開場が11時から?」

「そのようです……確かにここに……」

食べながら、博哉は床に置いてある本から招待状を取り出した。

片付け下手な博哉だけど、どこに何があるかは把握しているらしい。

可愛そうに、彩菜ちゃんが端正込めた招待状は、床の上の本のしおり変わりになっていた。

「んん。この時期だしなぁ。どんな格好しようかなー」

ドレスにしたら私の顔立ちだとお水の御姉様になりかねないし、かと言ってスーツは味気ない。
それとなく気が利いて、派手すぎない服なんて持っていないし。

そもそも今まで人の結婚式に呼ばれる事もなかったからなぁ。

「午後から買い物に行きますか?」

「そうねー。博哉は買い物何かあるの?」

「男はスーツで良いですからね。こういう時は楽でいいです」

「確かにね」

「車出しますか?」

「お願い」

こんな感じで一緒にいることも増えたなぁ。
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