君を好きな理由
……店員さんもうっすら気がついているみたいだし、どこでスイッチが入ったか解らないけど、勢いがつく前に退散した方がいいかな。

試着室に戻り、テキパキとまた着替えると、ドレスワンピースを持って顔を赤くしている店員さんを見る。


「これ、頂きます」

「あ、ありがとうございます」

さすがにポカンとした博哉が慌てて立ち上がった。

「俺が……」

「嫌よ」

店員さんにカードを渡して、言いかけた博哉を振り返る。


「では、サイズを教えてください」

「……服のプレゼントはいいわよ」

だいたい、女の服のサイズなんて聞くもんじゃないわよ。

会計を済ませて、ロゴ入りの紙袋を持ちながら店を出ると、難しい顔の博哉が私を見下ろす。


「どんなプレゼントなら、喜んで頂けるのでしょうか」

「プレゼントなんて気持ちでしょう。意味が無ければただの物よ」

「……そうですけど」

お金で買えるような物が欲しいなら、頑張ればだいたいは手に入るし。

買えないような物に手を出そうとも思わないし。

無いものねだりは主義じゃない。


「今までで、一番喜んでくれたのは旅行くらいですか」

「うん。楽しかった」

「ではまた来年行きますか」

「……行ければね」

「そういう風に言わない」

ガッシリ頭を捕まれて苦笑した。

最近は出る事が減ったけど、少し後ろ向きになると軌道修正に走る。


「博哉は何か欲しいものはないの?」

「俺ですか?」

頭から手をどけて、首を傾げながら私を見て、微かに眉をしかめる。


……えーと。


「ご飯食べに行こう、ご飯」

「お腹空きましたか?」

「……あまり」

と言うか、食べてから出てきたしね。

「俺は……若干はるかが足りなくなってきました」

「貴方は四六時中何を考えているのよ!」

「色々と」

「馬鹿!」

そんなことを言いながら、町をぶらつくのもたまにはいい。

だって、博哉って暇を見つけてはくっついてくるし。

本を読んでいたら手を出しては来ないけど、いつの間にか隣にピッタリ座ってタブレット見ていたり。

……その変わり、本を読み終わると手が伸びてくる。


男の習性と言うのか、なんと言うか。

ま、そういうもの……かしらね。

とりあえず、今まで付き合った事はないタイプ。

見た目は冷たそうに見えるのに、実は情熱的と言うか。
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