平安絵巻 続き
『姫様、今宵、帝がお越しになるというこ とです。』
『私に、ですか?』
ひと月以上お会いしていなかった。
『中宮…
『帝に、おかれましては御子様のご誕生お めでたく存じます。』
『ありがとう…』
……
沈黙が続いた。
『あの、はっきり申して下さい。』
『何をですか?』
『中宮は、雪の君に…』
『何を言われるのですか?』
『雪の君は、御子様をお産みになされた。
それに、しっかりとした後ろ盾がありま す。
私は、出家いたします。
その方が良いかと…
気づいたら、帝の腕の中にいた。
『そんなはずはありません!』
『いいえ……、私はこの宮中で男装をして いたのですよ!
その様な者に、お情けは、必要ありませ ん。』
震える声で言った。
涙が溢れてきた。
抱きしめる力が強くなる。
帝?
泣いているの?
『帝?お離し下さい。』
帝は、離さなかった。
どんどん強くなる。
苦しい……
『中宮、あなたが男装していたとき何と綺 麗な顔立ちだと驚きました。
後で、松に聞いたとき胸が高鳴りまし た。』
『帝が……?』
『はい。私が妃にしたいと言いました。』
『え!?』
『一目会ったときからきめていました。
どうか、私のそばにいては下さいません か?』
『はい。私で良いのなら…』
『良かった…』
それから、帝に優しく押し倒された。
翌日。
前と同じように、庭を散歩していると
『もう、夏か…』
『そうですね。中宮!』
『帝!!なぜここに?』
『何をしているのかと思い…』
『よろしいのですか?』
『ええ!』
『もう……。』
二人で、散歩をした。
『今宵もきてくださいませんか?』
『はい。』
『良かった…』
ふふふと、笑った。
そして、夜…
『中宮!待っていました!』
『侍女が見ております!』
『関係ありません!』
この夜も、帝に浸った。
それからまもなくして、
『おめでとうございます!
中宮様、ご懐妊です!』
『やっと、やっと…』
帝に嫁いでから、7年がたっていた。
オッギャーオッギャー
無事に、御子様が生まれた。
その子を鶴宮と名付けた。
『中宮の、名前でもあるな…』
『恥ずかしい…』
『よい名ですよ!』
『はい…。』
こうして、鶴宮は東宮にはなれなかったがその側近として、父帝に仕える事となる。
『中宮、いや、鶴。』
『はい?』
『そなたが、そばにおって良かった。』
『私も、あなた様がいらっしゃって、良かっ た…。』
このとき、初めて心が通じた気がした。
終わり……