秘密と記憶が出会うとき
明央はクスっと笑うと、抱きしめた腕を緩め、右手で祥子の頭を撫でた。


「やっぱ、かわいいな。
学長のチェックがいつかは入るだろうけど、それまでは俺だけのお姫様だからな。」


「中澤先輩・・・。」


「今みたいに2人きりのときは、明央でいいよ。
俺も祥子って呼ぶから。

お互いボロは出ないようにだけがんばろうな。」


「はい。」


2人はその日は抱き合ったまま朝まで過ごした。


朝になって2人ともあらたまって顔をあからめていたが、時間も少ないことだったし、慌てて準備をして学校へと出かけていった。



(中澤先輩ってやっぱり硬派で紳士だわ。
それにきっと女の子の扱いに慣れてないのね。
兄嫁さんをずっと思い続けていたんだもん。)


祥子は、その日の授業で文化祭の出し物ということで日舞を踊ることになった。


「はい、次を桧川クンやってごらんなさい。
次のところは主人公を愛しているけれど、思いが報われない少女の舞よ。

あなたは体の線も細いし、女舞をした方がいいわ。」


「そ、そうですか。
僕、女舞ってよく知らないんですが、やってみます。」


祥子が少女の舞を舞うと、周りがスッと静かになってしまった。

みんな黙って、祥子の舞に見入っているようだ。


「なかなかいいわね。
物腰もやわらかくて、体が小さい分は衣装を派手にすればとてもよく似合うと思うわ。
歌舞伎の女形もびっくりでしょうね。」


(あははは・・・女なんですけど・・・。)
「あ、そうですか・・・はい。」


練習用の浴衣姿のままで、体育館の外へ出て祥子は深呼吸した。

「ふぅ~。やわらかい動きって、ずっとやってるとけっこうきついなぁ。」


「よぉ、噂通りの美人じゃんかよ。」


「な、何ですか、いきなり!」


「あ、すまない。俺は須藤大我3年。
南地寮に住んでる。
おまえの踊りをさっきみせてもらって、声をかけたくなった。」


「ぼ、僕の舞を?」


「きれいだ。心を奪われた。」


「はぁ?(もしかしてそういう方向の人なの?)」


「おぃ、おまえ。
今、俺をホモ野郎だと思っただろう!

俺は芸術的にセンスのあるやつには敬意を払うだけだ。
正直に感動したから。」


「そ、そうなんだ。ありがとう。」


「おぃ、おまえも名乗れよ!
俺は先に身分を明かしたんだからさ。」


「わ、わかったよ。(なんかえらそう・・・)
僕は桧川祥 2年。最近転入してきて、北天寮に住んでいるんだ。」


「げっ、なんで北天寮なんだよ。
くそぉ、俺がかけあっておまえを南地にかえてもらえるように言ってくる!」


「ちょ、ちょ・・・っと・・・あ、いっちゃった。
いったいどういう人なんだよ?」
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