秘密と記憶が出会うとき
そして、貴文のところには祥子の母、志奈子がお礼にやってきていた。


「貴文さん、いろいろとお世話になりました。
私ひとりではもうどうすることもできなかったから・・・。
祥子だけでも、守りたかった。」


「わかっています。多額のお金をうまく使い慣れない人がおちていくことは、俺たちはよく学んだはずです。
それに俺はあなたを愛した人からあなたを守ってほしいと頼まれていたのに、あなたを見逃してしまったせいで、こんな結末を迎えさせてしまった。

あのときは若造だったけど、もうわかってくれてもいいんじゃないかな。
まだ事件が解決したわけもないし、会社の整理もあると思うからお役所に行くのは無理だろうけれど・・・志奈子さんと同じ食卓に座る権利だけでも与えてはもらえないだろうか。」


「えっ・・・それは、私にここに住めと?」


「嫌ですか?弟は弟の家で祥子ちゃんと楽しく暮らしてるようなので、俺にも同じ幸せを与えてほしくて。」


「もう、貴文さんったら。
こんなオバサンにくっついても何もいいことはないのに。」


「そんなことはないです。
少なくとも、もうあなたを悪いヤツに触れさせやしません。
それと、俺のメシをお弁当も含めてばっちり作っていただきます。
これは命令です。
家政婦に作り方を習うのはセーフですが、作業は必ず、あなたにしていただきます。
それが絶対していただかなくてはならない仕事です。

あ、すみません・・・仕事にしてしまった。
俺は仕事の契約しかしたことがないので、うまく言えなくて。
志奈子さん、俺のそばにいてください!」


「はい。よろこんで。
ありがとうございます。」


志奈子が貴文のところで暮らすという知らせはすぐに雪貴の携帯に入った。


「よかったな。兄貴すぐに俺に連絡してきたんだよな。
その自慢げな口調、ムカつくんだよ!って。
あははは。
よかったな・・・うん、祥子のことは俺に任せろって。
近いうちにそっちにも挨拶に行くから。
ねえさんにもそう伝えておいてくれよ。
じゃあな。」


電話の向こうで志奈子のことをねえさんといったことに、照れてあせっている貴文の姿が雪貴には見えるようだった。


「よく考えたら複雑なんだよなぁ・・・志奈子さんは祥子のお母さんだろ・・・お義母さんだ。
で・・・兄さんの嫁だったら・・・俺は何て呼んだらいいんだ!?」


そして、雪貴は朝食のときに祥子に伝えようとしていたが、祥子はその日、早く学校へ出かけたとあとになって知る。


祥子は学校の帰りに服役している陽子に面会に行った。


「何しにきたのよ。今になって出てきた笑いにでもきたの?」


「お姉ちゃん・・・いろいろ不自由してないかなって・・・生活に必要なものがあったら言ってね。
お母さんも心配してたから。」


「何なの!私は兄さんとあんたたちを・・・あんたのお父さんの遺産まで狙ったのよ。
どうして、加害者の私に・・・そんな。
それにあんた、雪貴さんとよろしくやってるんでしょう?
あんな男、もうお金をもぎとったらいらないわ。」


「あ・・・お姉ちゃん・・・ほんとは雪貴さんのこと・・・。」


「今は何とも思ってないわ。
あのときは、私に振り向いてほしいって思ってた。
だからあんなことしたけど・・・振り向いてくれなかった。
お金をとれるだけ取って嫌われただけだったわ。」


「お姉ちゃん・・・お姉ちゃんはみんなが幸せに暮らせるようにいっぱい働いてくれてたんでしょう?」


「そうね、いっぱい働いたわ。
だけど、なかなかうまくいかないわね。
どうして私が学生じゃなかったんだろうってあんたを妬んでたときもあったわ。
でも、現実はきびしかったなぁ。
私は気づいたことがあるの・・・私は人の上に立てる人間じゃないってこと。
アルバイトからでもいいから、コツコツやっていこうかと思ってる。」


「うん、私も応援するよ。
いっしょにバイトする?」


「バカ言わないでよ。あんたなんかとバイトしてたら、私がみじめになっちゃうだけじゃないの。
男は美人の前に集まるんだから!」


「私はべつに・・・美人なんかじゃ。」


「もう、自分のことわかってないんだから。
どうして夏生が悪い友達呼んで、あんたを襲わせる計画たてたと思ってるの。
あんただったら、みんな男たちは手に入れたいから・・・そこにつけこんだのよ。
結局はお母さんに阻まれたけど・・・。でもあれはやりすぎだった。
私も女だから、話をきいたときはショックで3日は眠れなかったわ。」


「だったらどうして夏生兄さんに協力ばかりしてたの?」


「2人きりの血のつながった兄妹だからかな。
私にとってはあなたは邪魔な妹だったの。
ちやほやされるのが当たり前だと思ってる・・・そんな気さえするほど、笑顔がステキで私には到底できっこない表情で・・・。ずっと嫉妬してたわ。
ごめんなさい・・・。」


「お姉ちゃん・・・。」
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