秘密と記憶が出会うとき
祥子はすぐに雪貴の家にはもどりたくない気持ちだった。

デパートの服飾売り場で、なんとなくうろついていると、須藤まどかと兄の大我もいっしょに歩いていた。


「祥子じゃない!!どうしたの?」


「えっ、ちょっと姉の面会に行った帰りなの。」


「あ、あぁ・・・服役中の?」


「うん。謝ってくれたけど、もう私と付き合いたくないって言われたみたいで・・・悲しくて。」


「きっと時間が解決してくれるわよ。
元気出してよ・・・。あっ、悪いんだけど、私これからお母さんと合流して着物をあわせなきゃいけないの。
お兄ちゃんに送ってもらうといいわ。
じゃ、また学校でね。」


「あ・・・まどか行っちゃった・・・。」


「俺と歩くのは嫌か?」


「そういうわけじゃ・・・。でも送ってもらうのは困るかな。」


「何か言われたのか?」


「うん、ちょっとだけね。雪貴さんに・・・」


「学長が・・・ふ~~ん。
そうだ、デートしようぜ。」


「ね、ねぇ須藤先輩!
そ、そんなことしたら・・・ダメですってば。」


「大人のクセに彼女をしばりすぎだってんだよ。
祥子も、そんなに従順な女になってやることないんじゃないの?

今、君は自由なわけだろ。
今じゃなきゃ、楽しめないことしないか?
君は高校生なんだ。
もちろん、学生として恥ずべきことはしてはいけないけどさ・・・デートやいろんな人に出会って楽しむのは悪いことじゃないと思う。」


「でも・・・私は・・・雪貴さんのお嫁さんになるって約束してたし。」


「嫁になるには早すぎるだろ?
それまで、社会勉強だってしなきゃ。
とにかく、定番デートくらいはしよう!なっ。」


祥子は大我に手をひかれるままに、水族館に連れていかれた。


「うわぁ、見上げればいっぱい魚がいる!」


「おまえ、どこの田舎もんだよ。
いや、最近は田舎の水族館の方がもっと進んでたりするなぁ。
上だの脇だのいろんなところに魚が泳げるようになってたりするんだ。」


「へぇ、そうなんだ。
私、学校の勉強以外なんて習い事ばかりで、友達と映画を見るのもやっとだった生活だったから・・・。
こういうの知らなくて。
あ、ちっちゃいときは遊園地とか行ったことあるのよ。
お父さんが生きてたときは、いろんなところに行ったんだけど・・・。」


「そっか。じゃあ、ここにきた値打ちは十分あったってことだな。
君はまだこういうデートだとか友達と遊びに行くってことをやった方がいい。」


「えっ?」


「ごめん、エラそうなこというけどさ・・・南側の寮の中でも遊びに連れていってもらったことがないってヤツがけっこういてな・・・知り合いでチーム作らせて行かせたりするんだけど、大学とか専門学校とか行くとするだろ。
その頃って俺たちの学校は自分の行きたい道をある程度見つけてなきゃいけないんだよな。

今しか社会勉強ってやりにくいわけだ。
学校のレベルが上がれば上がるほど、普通の人なら何でもないような日常が非日常的なわけ。
それって人生ですごく損をしてると思わないか?」


「そりゃ・・・そうかも。」


「だろ?俺はいずれ親の旅館を継ぐことになる。
人に癒しを提供するのにお門違いな癒しなら意味がないように思う。
ただ、温泉と料理がよかったらそれだけでいいのか・・・ってね。」


「須藤先輩すごいですね。」
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