秘密と記憶が出会うとき
その頃、祥子は志奈子と話をしていた。


「ごめんね・・・お母さん。
私、今のままじゃ雪貴さんのそばにはいられないの。」


「そんなことないでしょう?雪貴さん、あなたがいなくなってあんなに声を荒げてたわ。
ふだんクールな人なのに・・・取り乱してたのよ。」


「うん・・・でも・・・怖くて。
すごく怒ってて・・・あの目をみたら死んでしまいそうになる。
オムライスを作ったんだけど、まぁまぁとしか言ってくれないの。」


「もう、祥子はお子ちゃまなのね。
雪貴さんはきっとはずかしかったのよ。
あなた相手に、すごくおいしいよ!って言いにくかっただけなんじゃないの。」


「2人だけだったのに?
雪貴さんはいつも自信たっぷりで、私に何かいうのにはずかしがったりしないわ。
それに、須藤先輩のことも何も私のいうことをきいてくれないし、信用してくれないの。
私の考えることなんてどうだっていいのよ。」


「あらあら・・・あんなに雪ちゃんのお嫁さんになるって言ってたくせに。
だから、あなたはまっさらなままの祥子で雪貴さんに託そうと思ったのに。」


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」



祥子は志奈子に謝って、転がり込んだ部屋にもどってこもってしまった。



「ふう・・・あいつにも困ったものだな。
学生に嫉妬したりして・・・何やってんだ。」


「雪貴さんらしいわ。
祥子がまだ子どもなのよ。
何もない間柄で、生活全部みてくれる人なんているわけないのに。」


「ところでさ、雪貴には今夜にはここに祥子ちゃんがいることは伝えないといけないと思うが・・・どうしようかな。」


「私がお伝えしますわ。
それで、しばらくここか、別荘を使わせてもらってもいいかしら?」


「そりゃ、かまわないよ。
あいつもバカだからなぁ。
10年間・・・あいつの妻になりたがった女はたくさんいたはずなのに・・・ずっと祥子ちゃんのことばかり思っててさ・・・。
大学受験のときも、俺が親父の後を継いだ時も・・・バカみたいに『いつになったら祥子にあえるんだろう』って言ってた。
ほんとはあいつ自身が祥子ちゃんにメロメロなくせになぁ。」



お昼をこえて、雪貴は自分の仕事もほったらかしで、狂ったように祥子をさがしていた。

しかし、当たれるところすべてに電話をしたが、手がかりがまったくなかった。


「どうしても見つからない・・・これは誰か嘘をついているとしか思えないな。」


そして・・・雪貴は貴文の邸にやってきて玄関へ入る前に、庭の窓から家の中の様子をながめてみた。


「はっ・・・祥子・・・。やっぱりここだったのか。」


すぐに邸の中へ入り、使用人たちが止めるのも押し切って志奈子のいるリビングのドアを開けた。


「祥子!どうしてここにいる?」


「それは・・・あの・・・。」
< 39 / 47 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop