秘密と記憶が出会うとき
カジュアルなスタイルに着替えた雪貴は、かなり自分に近くなったと祥子は思った。

邸で保護されていたときも、ラフな格好は見ていたはずなのに、雪貴のイメージはスーツ姿で仕事をしている感じがこびりついていたから、いつも自分が子どものつもりだった。


(私が自分で、子どもになりたがったんだわ。
この人の本質を見ようと思わなかっただけ。)


夜の水族館はデートで来ている恋人たちが多い。

歩きまわるのに雪貴はずっと祥子の手をつないでいた。

こんなことはきっと学生の彼氏だったらしないだろうなと祥子は思っていた。



「どうした?足が痛くなったのかい。」

「ううん、雪貴さんはずっと私の手を握ったままだなぁと思って・・・」


「はっ・・・ごめん、嫌だった?
手を離したら、君がいなくなってしまうんじゃないかって思えて。」


「そんなこと考えてくれるのって雪貴さんだけですよ。」


「そっか。祥子が嫌でなければ、俺はずっと手を離さない。
俺は他のBFみたいに時間がとれる状況じゃないから・・・○時にって約束してデートするってなかなかできない。
だから、今までみたいにうちの邸にいて、俺が仕事からもどったときに居てくれていた方が助かるし、うれしいんだけど・・・君のお母さんからは注意されてしまうし。

結婚前の男女の常識が…云々って言われたら、何も言えなくなってしまって。」


「いいの、離れちゃうと考えなくていいことをお互いいっぱい考えちゃうんだ~ってわかったし。
私だけが苦しいんだとばかり思っていたのに、雪貴さんの方がずっと切実だったんだなって思うと申し訳ないなってよくわかったから。」


「それでなんだけどな・・・結婚してしまわないか?俺たち。」


「はぁ?」


「確かに君は高校生だけど、1年ほどしたら卒業するし、卒業までに妊娠して出産するなんてことは絶対しないと約束するから、すぐに結婚して俺とまた邸で暮らしてほしい。

卒業してから大々的に披露宴をすればいいんじゃないかなって思ったんだけどさ。」


「いいの?雪貴さんは披露宴をすぐしないとお仕事に支障が出るんじゃ・・・?」


「そんなことはないよ。君の事情や指輪を見せればどったことはない。
きっとうらやましがられることだろう。
それに、君はどんどんきれいになるしね。」


「えっ?」


「気づいてないの?10年ぶりに会ったとき、衝撃的だったよ。
かわいいお嬢ちゃんもほんとにかわいくて印象的だったけど、目の前にいるのはニキビとそばかすを気にした女の子で体型はすっかり女性だった。
きっとあと3年くらいで、もっと洗練されてすてきなレディになってくれると信じてる。」


「ぶくぶくのおばさんになってるかもしれませんよ。」


「そんなことはない。かわいいぷくぷくのお嫁さんになってるだけさ。」


「もう!」


「やっと笑ってくれた。で、あらためてその案ですすめちゃってよろしいでしょうか?
了承してくれると君の雪ちゃんは、君のところにおちこんできたときの10倍以上の元気が出て、明日からの仕事にもすごくいい影響が出ますよ。
いかがですか?返事をききたい。」


「私はずっと変わってないわ。子どもの頃から言ってるとおり、お嫁さんになってあげる!」


「なんで、お嫁さんになってあげる・・・に?」


「だってなってあげるだもん。雪貴さんが勝手に勘違いしてるだけ。
私は雪貴さんに素敵な女性が現れなかったら、私がお嫁さんになってあげる!って言ったのよ。」
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