秘密と記憶が出会うとき
歓迎会もお開きとなって片づけを手伝った祥子は、親戚との面談という理由で、雪貴の家へと出かけた。


「お嬢様・・・よくご無事でお帰りくださいました。」


「ま、待って・・・三好さん、わ、私は帰ってきたんじゃないの。
今は寮生活してて・・・。」


「存じておりますよ。
あなたをぼっちゃまに仕立てあげたスタッフでもあるんですから・・・私は。」


「あっ・・・そっか。」


雪貴の家で家政婦として通っているこの女性は三好たか子といい、既婚者で雪貴が必要な場合だけ家政婦であり、そうでないときは特殊メイクアップアーチストでもある。
正確には特殊メイクアップアーチストの助手なのだが、現在は家事、育児に追われているため本腰をいれてアーチスト業はできないという状況だ。
夫が佐伯ゼミナール(貴文が理事長をしている学習塾)で事務長をしていることで佐伯家と縁が深い。


「雪貴さんは居間にいる?」


「ちょっとお待ちください。
雪貴様から、着替えてから来るようにとの連絡を受けておりますので、お召し変えください。」


「はぁ?」


「学校の手続きや男の子の立ち居振る舞いの勉強で、久しぶりなんでしょう?
ですから、雪貴様はお嬢様としての祥子様に会いたいのだと思いますよ。」


「あ・・・そうなの。
(もう、何よ。自分が男子校に入れっていったくせに!)
わかったわ。着替えはどこですればいいの?」


「ご案内します。」


用意してあったのは春らしいワンピースと学生らしいおとなしいながらもポイントをよくふまえた、アクセサリーだった。


「なんか・・・こういうの久しぶりでつけるのがはずかしくなっちゃうな。」


短い髪に大き目のイヤリング。
それでいて無理に大人へと背伸びしてないデザイン。

用意ができると、すぐに居間へと小走りで向かった。


「すみません、遅くなりました。」


「無理しなくていいよ。
早く来てくれてたのはわかってたからね。

ふ~~ん・・・ボーイッシュな髪にもよく似合うね。
気に入ってもらえたかな?」


「はい。なんかこんな用意してもらって、緊張してしまいます。」


「俺のこと恨んでるかなっと思ってさ。」


「えっ?」


「男子校へ通えと指示を出し、しかも寮生としてがんばれなんてさ。」


「どうしてなんですか?
学校が男子校だった・・・っていうことだけなら仕方ないかとも思いますけど・・・学生寮まで・・・その。
日常で困ってしまいます。」


「同室の先輩が手を出してきたのか?」

「いえ、中澤先輩は歓迎会までセッティングしてくれて親切ですけど。
とくに着替えとか、寝る前とか・・・困るんです。
それと・・・あの・・・生理日が来たらどうしたら・・・。」


「それは心配するな。
今みたいに、呼びつけてやるから、俺か兄さんに電話してからここにきてくれればいい。
三好や動ける女性スタッフに頼んでおくよ。
学校はここから通うか、つらいようなら俺が勉強を教えてやる。」





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