マサユメ~GoodNightBaby~
終わりの始まり
警視庁の入り口を押し寄せた報道陣が囲んでいた。その喧騒を囃し立てるかのように、急激に勢いを増して降りしきる雨音が飲み込んでいく。

街灯の光すらも飲み込む雨は、空を覆い尽くした暗い雲をより一層濃くしている。時折、突風が吹き付け横殴りの雨粒が建物の影にあるはずのエントランスに余すことなく侵入していた。

カメラや音響機材、照明機器、その他諸々の器具には雨対策のビニールが巻き付けられており、風と共に摩擦音が喚き立てる。


本来これほどの事件の報道生中継となれば、記者会見として"それ相応の"部屋が用意されるものであったろう。

しかし、その特異な話題性と衝撃的なスクープから警視庁が場を整えるよりも先に各局が寄り集まる現状を生み出していた。

「カメラ回せ!」

「おい、シャッターチャンス逃すんじゃねぇぞ」

「ちょっと、あんまり押さないでくださいよ」

大粒の雨を降りまきながら全土に広まりつつある雨雲が、列島を侵食するウイルスのように首都圏をじわじわと覆い尽くしていく。

まるでその地に蠢いていた得体の知れないナニカを、あるいは世間の人々が抱いていた憎悪や畏怖とでも呼ぶべきナニカを包み隠すかのように暗く深く。

この降りしきる雨の中、早い者では数時間以上も前から陣取りをしてその時を待っていた。雨粒の幕が視界をぼやけさせ、見上げる上層階の部屋の灯りがぼんやりと揺らぐ。

「……それにしても、なんだか呆気ない幕切れだよな」

顔が見えるように透明なカッパを着こんだ記者の中の一人が、警視庁のある一室を見上げながらぽつりと呟いた。

小さな言葉が回りにいた数人の耳にのみ届いて、「あっけない」 というその一言が確かな共感として鼓膜を揺らしていた。

警視庁では緊急の会議が設けられ、窓越しにざわめく記者達に向けて。いや、恐々とする世間へ向けて会見を行うことを決議していた。

そして、マスコミを通して公衆の面前に立ち、質疑応答と言う名の公開処刑を受ける人物が決定した。そんな矢面に立つことになったのはある刑事の1人であった。
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