マサユメ~GoodNightBaby~
「おーい、リム助!」
通学路を歩いているとアパートを出て2番目の交差点の左側の道路から大きな声が聞こえてきた。
そう、リム助ってのはオレのことを指している。
あだ名といえばあだ名なんだけど、リム助だなんて呼び方をするヤツは校内でも一人だけだ。
「ほんと、朝から元気だな。良太」
「だろー?お前はいつでも感情が平坦だな!」
こいつは野瀬 良太(のせ りょうた)。
オレと同じクラスでバスケ部のエース。
身長はオレよりも少し高いくらいだから180センチあるかどうかくらいだろうか。
「相変わらず良いブロンドだよな。格好いい」
そう良いながら良太はオレの髪を見ていた。
オレはどちらかと言えば良太の様な黒髪に憧れるのだが、どちらも無い物ねだりなのだろうと、自分のなかでそうそうに帰結させた。
「そういや、例のニュース見た?」
「例のニュース?」
良太は身長も高く、ルックスも良い、そして性格ももう朝の挨拶の時点で察してもらえたと思うけどお調子者なので男女問わず人気がある。
そんなわけで話ながら歩いている途中にも度々すれ違う学友達からあいさつがとんできていた。
「なんでも高校生のバラバラ死体が見つかったらしいぜ?しかもうちらの高校の近く」
「高校生のバラバラ死体?」
「そ。
自宅の部屋の中だったらしいんだけど、誰かが侵入した形跡もなくて他殺は考えにくいんだけど、自殺にしては死体が損壊されすぎてるらしいよ」
朝から何て話をぶっこんで来るんだこいつ。
「だから他殺の可能性は低いって言われてるのに、事件性は極めて高いんだと」
矛盾してるな。
他殺の可能性が低いのなら自殺の可能性が高いと言うことだ。
自室で侵入者の形跡がないなら自殺で決まりだと思うんだけど、まぁ、オレが考えることはそれじゃないな。
そう、オレ達にはそんな奇っ怪な事件よりも先に考えなくてはならないことがある。
「今日、朝の小テストあるらしいよ」
「…………え?」
良太は勉強が苦手だ。
スポーツ万能、手先も器用だが学力がない。
嫌いだから努力しないとか、スポーツに打ち込んでおろそかになってしまうケースではない。
「がんばれ名探偵」
授業もしっかり聞いているし、宿題もちゃんとやってくる(ほとんど間違ってるけど)、テスト前の勉強もしている。
だけど、肝心の点数が努力に比例しない。
そう、本当の意味で勉強が苦手なようだ。
「オレ今度小テストで赤点取ったら居残り補習って言われてるんだけど……」
良太は蛇に睨まれたカエルの様な弱々しい目でこちらを見ていた。
とはいえ、小テストに関しては前の授業の復習みたいなものだから、範囲も分かっているし特にアドバイスのしようもないわけで。
オレはちょっと可愛そうだとは思いながらも、一言。
「うん、がんばれ」
そんなこんなしてるうちに学校に到着する。
平穏な日常の始まりだ。
そう、思っていた。
だけど、実際にはこんなありきたりな朝の風景は二度と訪れなくなるのであった。
そのことをこの時のオレも良太も、そして学校の皆も誰も知り得なかった。