マサユメ~GoodNightBaby~

英語、世界史の授業が終わった。

「まだ降ってるね」

真緒は部活に行くための準備をしながらそう言った。

「止む気配もないし、強くなってる気もするな」

「これ、雨宿りして済むあれかなぁ?」

湊もそう言って外を見つめていた。

すると教室の扉が空いて若林先生が入ってきた。

「どうにも止まないらしい。

親御さんに連絡つく人は傘を持ってきてもらうなりして帰りなさい。連絡が難しい人は少ないけど学校の傘があるから職員室まで取りにおいで」

そう言って扉をしめた。

「だって、うちは無理だから借りにいこうかな。リっくんは?」

「ん?あぁ、オレ独り暮らしだから」

「そっか。じゃあ一緒に入ろうか。この感じだと一人一個じゃ傘足りなくなっちゃうだろうし。僕取ってくるね」

にっと笑って湊は職員室に向かっていった。

それに続くようにして数人の生徒が職員室へと重い足取りで向かっていった。

「あ、じゃあ私行くね」

「あ、ああ。帰り……気を付けろよ」

「うん」と嬉しそうにして真緒は部活に向かった。

何だあの嬉しそうな顔は。

変なやつだな。

「あの、薬師くん」

後ろから声がして振り返る。

うつむきぎみに話しかけてきたのはクラスメイトの女の子だった。

えっと、名前…………分かんねぇや。

「えっと、なに?」

そう聞いても俯いている。

目まで届く前髪が揺れる。

「あの、その。迷惑じゃなかったら一緒に…………」

後ろにまわした手には折り畳み傘が見えた。

女の子らしい可愛い傘。

「リっくーん!傘借りれたよー!」

ガラッと扉が空いて湊が入ってきた。

それに驚いて、肩をビクッと震わせたオレに声をかけてくれた女の子。

「え、あ、その。ごめんなさい。

じゃあね!」

そう言って駆け足で教室を出ていく。

「あれ!お邪魔だった?

榎本さん顔真っ赤だったなぁ」

榎本さんて言うのか。

なんだったんだろう。

「しかし、リっくんはモテるねぇ」

「……………………え?」

「え?って、気づいてないの?」

湊の呆れた顔とかなかなか見ないけど、それが今まさにオレに向けられていた。

「まぁ、その鈍感さもリっくんの良いところなのかな。帰ろ」

「釈然としない結論だな」

そう言って笑った。

どしゃ降りの雨、何組かの相合い傘が校門から出ていく。

学校の前まで迎えに来た車に乗る生徒もいた。

予報外れの大雨は次の日も続くのだった。

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