マサユメ~GoodNightBaby~
雨は依然として強く地面を叩き続けている。
舗装路に水溜りが広がるほどの豪雨は今日の夕方まで続く見込みらしい。
「この雨じゃ傘と雨に隠れてどれが誰だか分かんねぇな」
オレは昨日借りた透明なビニール傘を手に持って、自分の黒い傘を差している。
一応借り物だし返さないとな。
黒い雲から降る雨。
視界が時折ぼやけているように見えて、その度にあの悪夢を思い出して背筋がぶるっと震えた。
大丈夫だ。そう自分に言い聞かせる。
湊はいつも通り笑っているさ。
大丈夫。
校門を抜け、靴箱の前で傘をたたんで雨粒をふりはらった。
ビシャっと勢いよく跳ねた水滴が血飛沫と重なって目をそらした。
「リム助、おはよー!って、顔色悪いぞ、大丈夫か?」
「・・・良太」
靴箱から上靴を取り出していた良太がオレを見つけて声をかけてきた。
顔色・・・悪いのか?
「風邪?ってわけじゃなさそうだな。貧血か?」
「いや、大丈夫」
「そうか?しんどかったら保健室いけよな」
「ああ」
傘立てに傘を挿して、濡れた靴を脱いだ。
靴下にも雨がしみこんでいて気持ちが悪かった。
上靴を取り出して足を入れると、濡れた靴下特有の不快な感触が足の指に伝わった。
「オレ、昨日借りた傘返してから行くわ」
「ああ、学校の?律儀だなぁ。
じゃあ先に教室行ってるわー」
そう言って良太は教室へと向かっていった。
オレは反対の職員室に向けて歩き出す。
湊はもう来てるかな?
あいつが遅刻したことなんて見たことないからきっともう教室にいるのだろう。
早く会ってこの不安な気持ちを取り払いたいもんだ。
職員室の前まで来ると、何だか中が騒がしかった。
「なんかトラブルでもあったのか?」
ノックをして扉を開ける。
騒々しかった室内が一瞬にして凍りついたかのように静かになる。
そして教師全員の目がこちらに向いて、オレはたじろいだ。
「2年の薬師か。なんだ?」
教育指導の関谷先生がまるで生徒を尋問するかのような声色でそう言った。
「あ、昨日借りた傘を返しに・・・」
電話を持って通話口を塞いでいる先生。
口論になっている先生もいるように見える。
担任の若林先生はそこには居なかった。
他の先生は校長先生以外そろっているのに不自然だ。
「分かった。傘はそこに置いておいていいから教室に向かいなさい」
「あ、はい。失礼します」
扉を閉めた瞬間にまた室内がざわついた。
「何かおかしいだろ。なんだよこれ、湊!?」
漠然としていた不安が再びあふれ出す。
オレは一心不乱に教室を目指した。
途中で人にぶつかったりもしたが、気にも留めずに教室へと駆けていく。
そしてオレは教室の扉に手をかけた。