マサユメ~GoodNightBaby~
「あ、気がついたわね。気分はどう?」
保健室の湯沢先生の優しい声が聞こえた。
湯沢先生は美人でスタイルも良くて愛想も良い人気の先生だ。
先生と話すのを目的で元気な生徒も度々保健室を訪れることがあるほどらしい。
「頭がぼーっとします」
「貧血で倒れたからね。机にスポーツドリンクあるから飲めるだけ飲んでね」
「はい・・・」
ゆっくりと身体を起こそうとすると、重りでも抱えているのかと思うほどに身体が重く感じた。
ペットボトルを手にとって蓋を開ける。
一口しか喉を通らなかった。
「先生」
「ん?なあに?」
開けっ放しのペットボトルの飲み口を見つめながらオレは最後の悪あがきをしようとしていた。
「さっきの集会での話って・・・・」
否定して欲しい。
冗談であって欲しい。
「うん。本田君のことね・・・とても残念だったわね」
その言葉を聞いた瞬間に目の前に湊のあの苦しそうな最期の表情が浮かんだ。
「あなたも同じクラスだったし親交もあったのでしょうね。受け入れられないのも無理はないわ。
でもね。どんな理由があれども自分から死んでしまうのはダメよ」
「・・・がう」
「え?」
違うオレが殺した。
そう言いかけて口を閉じた。
ベッドから降りる。
「まだ眠っててもいいのよ?」
「大丈夫です」
ペットボトルを手にしてオレは保健室を後にした。
ゆっくりと教室に戻る。
雨音がイラついて窓を見ると、顔面蒼白な自分と目が合った。
なんて顔だよ。そりゃ委員長も良太も心配するよな。
そして振り返った時。
目の前に若林先生を見つけた。
オレは無意識に駆け寄っていた。
先生は携帯で小さな声で話している。
とても真剣そうに。
「若林先生」
オレの声にはっとして振り返る先生。
「薬師・・・なんだ?電話中なのが分からないのか?」
「湊は殺されたんですよね?」
「お前・・・なんで」
なんで知っているんだ?と言いかけて先生は首を振った。
「集会の話にあっただろう自殺だよ。警察が今詳しく調べているところだが」
「違う。湊は殺されたんだ!あいつが自殺するわけがない。あいつはオレが・・・」
「分かった話は後で聞いてやる。だから身体がもう大丈夫ならもう教室に戻りなさい。いいね?」
そう言い残して先生は場所を変えて行ってしまった。
残されたオレはしばらくそこに立ち尽くしていた。
そして1時間目の終わりのチャイムが響き渡った。