マサユメ~GoodNightBaby~
放課後の教室でオレは呆然として就業のベルにも気付かずに座っていた。
その時、がしゃん!と大きな音が教室に響いた。
振り返ると、勝が倒れた机を睨み付けていた。
「久々に顔出してみたら湊が死んだ!!?
ふざけんじゃねぇ!くそっ」
乱暴にスクールバッグを担ぎ、怒りの中に確かに寂しさを含んだ言葉を吐き捨てて勝は教室を出て行った。
勝の姿が見えなくなると、皆が口々に「驚いた」「本当に乱暴なんだから」「なんなんだよアイツ」と文句を吐くのだった。
そんな中で突然の物音にもクラスメイトの言葉にも反応せずに下を向いている人がいたことに気付いた。
「・・・誰だったっけ。えっと榎本さんだったかな?」
榎本 あずき(えのもと あずき)さん。
クラスではとても大人しくて目立たない。
目にかかりそうな伸びた前髪で、いつも俯きがちだからしっかりと顔を見たことがないような気がする。
そういえば、昨日のアレは何だったんだろう。
まぁ、今はそんなこと良いか・・・
「・・・え?」
ずっと机に向かって俯いていた榎本さんがふと窓から雨の止んだ校庭を見た。
今、何かを見つけたみたいだった。
「何も変なことはないけど・・・」
オレもその方向に目を向けてみたが、帰宅する学生が校門に向かってバラバラと歩いている何の変哲も無い光景だった。
「あんな場所に、外国の人が立ってるわけないよね。
でも、なんだかこっちを向いていたような気がしたけど・・・」
外国の人?
そんな人の姿はどこにも見えなかったけど、いったい何を言っているのだろうか。
考えるのも面倒だな。
今日は何だか身体が重い。
「帰って寝よう・・・」
力なく席を立つ。
するとパサリと4つ折になったメモ帳が床に落ちた。
オレはゆっくりとそれを拾い上げて、開いた。
「ふっ」
そこには良太と真緒からのメッセージが書かれていた。
「声をかけても全然反応がなかったから部活にいくね。今日は大変なことになったけど、リアム君は悪くない。悪くないから。真緒」
「人形みたいに動かなかったから顔に落書きでもしてやろうかと思ったけど真緒に止められた(笑) 明日もそんな顔でぼーっとしてたら今度はガチで書くからな!良太」
心配してくれてたんだな2人とも。
明日はこんな顔してられないよな。
メモ帳をまた4つ折にしてバッグの中にそっと入れた。
「よし」と、そう一息ついてオレは帰路に立つのだった。