マサユメ~GoodNightBaby~
家に着くと昨日の様に疲れがどっと押し寄せてきた。今日は湊のこともあったし余計に疲れが出ているのだろう。

「…………湊、何で」 小さな弱々しい呟きは誰に届くことも無く消えていく。こんな時に両親が居れば何か変わったのだろうか?もし、老夫婦がほんの少しでも愛情を注いでくれていたら何か変わったのだろうか?初めて、独りだけのこの部屋が寂しく思えて、オレはブレザー姿のままでベッドの上で体育座りをして顔を伏せた。

自分のことを抱きしめるように優しく、けれど湧き出した別の思いが腕の力を強くしていく。湊を殺した自分を責めるように強く強く、この身体が夢の中の湊の様に引きちぎれてしまえば良いのになんて考えてしまっていたのかもしれない。

「明日、湊の家に行ってみようかな……若林は教えてくれないよな。誰か……知ってそうなやついねぇかな?」

体勢はそのままに、オレは顔だけを少し前に向けた。まだ雨の蒸す臭いが残っている。蒸し蒸しと暑い。

オレはローテーブルの上に置いていたミネラルウォーターを手にして、一気に流し込む。冷蔵庫に入れてなかったからぬるま湯になっていないか心配だったけれど、雨のおかげか気になるほど水温が上がっていなかった。ゴクゴクと音を立てて一気に半分くらい飲み込んだ。その時、あるクラスメイトの顔が浮かんだ。

「……そうだ、勝。勝なら湊の家の場所知っているかもしれない」

クラスが一緒でも勝とは一言も話したことがない様な気もするな。なんて切り出そうか……

「明日会ってみて考えるしかねぇよな。正直どんなやつなのかも知らないし。でも、あの湊が優しいと言っていたから話せばわかるやつなのかもしれない」

よし、明日は勝に湊の家を聞こう。まぁ、そもそも勝がまた登校してくるのかも分からないから、どこまでも行き当たりばったりな予定なんだけど。

「……けど」

もし、もしも勝に湊の家を聞くことが出来たとして、オレは何をするつもりなのか?「もしかしたら湊は自殺ではないかもしれません」 なんて言うのか?ただの悪夢かも知れないのに「もしかしたら湊を殺したのはオレかもしれません」 なんて伝えるのか?

そんなことして誰が何を得るんだろう。湊はああ言っていたけれど新しい母親だってショックを受けているのかもしれない。実の父親は嘆き悲しみ、そんなことを伝えられたら激怒して殴りかかってくるかもしれない。ただ、オレが自己満足をしたいだけ。

きっと正解ではない。間違っているかは分からないけど、その選択は正解でないことだけはハッキリしていた。

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