マサユメ~GoodNightBaby~

うだるような暑さの中で歩き始める。強烈な目眩で何度も立ち止まりながらオレは榎本さんの安否確認の為に歩き続けていた。

真緒と良太はオレの歩調に意識的に合わせてくれながらも、それを悟られないように他愛のない話をしている。

流れていく景色が、ゆっくりと過ぎていく。

「リアム君大丈夫?」
「あぁ、オレのことは心配しなくていいから早く榎本さんの家に行こう」

真緒の気持ちも今はオレを落ち着かせることはできない。もはや、この目で榎本さんの無事を確認しなくてはオレは安心できないんだ。

「あの角を曲がったらもう、あずきちゃんの家は見えてくるわ」

ドクンと強くみゃくを打った瞬間に、昨夜の悪夢がフラッシュバックした。不快な音も感触も、目を覆いたくなるような惨状も、吐き気を催す悪臭も全てが蘇る。

「……っとぉ!本当に大丈夫かよリム助」

意識を失いかけた?

「大丈夫……行こう 」
「行こうってお前フラフラだぞ……」

まだ榎本さんが殺されたかも分からないのに、何でここまではっきりと不安があるのか。あれはただの悪夢で、きっと湊のことだって偶然が重なっただけに決まってる。

そうだよ。そうでなければ、オレはいったい何だって言うんだ?

オレは良太に肩を貸してもらいながら、真緒の言った角へと差し掛かる。一軒家の塀越しに少しずつ道路が映し出される。その時、赤い光が一瞬横切った。

「うそ……どうなってるの?」

少し進んだ先にある小道から封鎖された街角の一角。そのバリケードの中ではパトカーのランプが赤く光り、救急車の前では救急隊員が首を振っていた。

「真緒……榎本家って?」
「……うん、あの玄関にブルーシートがかけられている家」

くそっ。やっぱりそうなのか?あれは、あの悪夢は----マサユメだとでも言うのかよ?
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