マサユメ～GoodNightBaby～
しかし、この奇っ怪で凄惨な事件はその人の釈放から半日と経たずに、ある意味で決着を迎える。

その人は釈放された日の内に自ら命を絶ったのだ。

自殺現場は独り暮らしをしていたアパートの一室で、二つ隣に住む住人が廊下を歩いているとその人の部屋の玄関が開いており、不自然に思い中を覗くと目を覆いたくなる様な惨状を目の当たりにした。

発見した住民は「地獄の様な光景」　と口にした程に凄惨なもので、警察に通報した際には救急車の手配は断ったという。生存の可能性は皆無と告げられたその人は、この事件の被害者たちの様に身体はﾊﾞﾗﾊﾞﾗに引きちぎられ、独り暮らしをしていた部屋の床はおろか壁や廊下までも余すことなく真っ赤に血で染めあげられていた。

血で染められた机の上の書き置きには一言「goodnight baby」　と記されていたと報告書に記されていた。

警察は始めこそ被害者遺族や、事件に恐々とする人物による復讐としての殺人事件として捜査を行った。しかし、先の連続殺人事件と同様にその日不審者は見られず、現場の状況から見ても自殺はおろか、他殺に関しても早々に捜査を打ち切らざるを得ない程に手掛かりは見つけられなかった。

世間を長らく震撼させた連続殺人。その実質的な容疑者の自殺はすぐさま各局で報道されることとなる。

人々は恐怖からの解放という安堵が芽生えるのと同時に、世間や報道陣の憤りは警察へと向いていった。

事件を解決できず、犯人であった可能性が高い少年を逮捕することなく釈放し、自殺を防ぐことができなかったことへの不満が爆発しないわけなど無かったのだ。警視庁では一時的に業務に支障が出るほどの抗議や叱責の電話が殺到し、各警察署や駐在所にまで押し掛ける人も多く居たという。

政府官僚もこの事件と騒動について事態を重く受け止め、警視庁での記者会見を行うよう進言した。
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