マサユメ～GoodNightBaby～

　今知ってるって言ったよな？いや、幾ら川島が顔が広いって言ったって６クラス240人の中からたまたま噂の出どころを知ってるなんてことあり得るのか？

　オレは椅子を引いてかたまったまま、ただ川島の顔を見ていた。いつもの豪快な笑顔じゃない、なんだよこの少し怖いと感じてしまう静かな笑顔は？

「あの噂話を流したやつ、あれ戸叶だろ？」
「戸叶？

･･････どんなやつなんだ？」

　戸叶（とかの）か、珍しい名前だから何か接点が合ったら思い出しそうだけれど知らない名前だな。オレは椅子を元に戻して、また深く座り直した。具体的に出てきた名前に気持ちがはやる。

「どんなやつも何も、噂話の好きなよくいる女子だけどな･･････ああ、でもアイツお前のこと」　そう言いかけて川島は「いや、これは何でもない」　と言葉を止めた。

「その戸叶ってやつが湊と榎本さんの噂話を広めたのは確かなのか？いや、そもそも何で関係ないそんなやつが、あんな不愉快な噂話を流すんだよ？」
「がっはっは。今日は質問攻めだなー。

理由･･････理由ね。いや、まあ簡単なことじゃないか？」

　川島はオレの目を真っすぐに見たままで言う。

「注目して欲しかったんだろ？」
「は･･････？」

　注目して欲しい？そんな身勝手な理由で人の死を馬鹿にするような噂話を流したって言うのか？「ふざけんな」　湊の笑顔と最期の苦悶の表情を思い出して、オレは振り絞るような声でそう漏らしていた。

「ふざけてるか･･････うん、そうだよな。だけど本人にとっちゃ大真面目なのかもしれないぞ？」
「どういうことだよ？」

　川島は急に帰り支度をしだして、机の上に無造作に出ていた教科書と筆記用具を鞄に詰め込んだ。

「たぶんだけどさ。あいつは誰でもいいから注目して欲しくてやったわけじゃないと思うんだよ。そして、その意味ではアイツは注目して欲しかった人間にもくろみ通り興味を持たれているって言えるのかもな」

　鞄を持ち上げる川島。オレは川島の言っている意味が全くと言っていい程に理解ができたいなかった。

「ちょっと待てよ。もっと分かりやすく説明しろよ！」

　オレは川島の腕を力強く握って、帰ろうとするのを止めていた。大きくなってしまった声に、世間話をして笑っていた生徒達の視線も集まっていた。川島はそんなクラスメイト達の視線を少し気にしながら小さい声で言う。

「リアムは鈍感だな」

　その時誰かの同じ言葉がフラッシュバックしたような気がした。そんなことを感じていたら無意識に手の力が弱まっていて川島は腕を掴んでいたオレの手を解く。

「他人から見ればただあの胸糞悪い噂話だと思う。実際に内容は根も葉もないような事なのは事実だしな。だけど、あいつの注目して欲しいって感情は･･････手段はいただけたものじゃないけれど分からない人間の方が少ないと思うぜ？」

　そう言って川島は帰っていった。胸糞悪い噂話を流した気持ちは分からなくはない？それすらもオレには意味が分からないってのに、そう思うやつの方が少なくはないって本当にどういう意味だよ。

「くそっ･･････」　頭を抱えてそう吐き捨てる。川島の居なくなったこの教室ではオレはただの部外者だ。ここで憤っているわけにもいかないし、川島の言葉の意味を考えている場合でもない。

　噂話の出どころは恐らく分かった。だけど、すっきりしねえ。鈍感ってなんだよ･･････