マサユメ~GoodNightBaby~
体育館裏は横にあるプールの覗き防止などの為に設置されている背の高い塀に面している。その為に太陽の陽射しが入りにくく、少しじめじめとして苔なども生えている。あまり生徒達から好かれない場所の一つだ。

「えっと……何の話かな?」

オレは話の途中で逃げられないように校庭への道を塞ぐ形で戸叶さんの前に立っていた。とはいえ、狭いが十分に1人なら通れる塀との隙間はあってプールへの抜け道はあるのだけれど。

それでも、こうして少し賑わってきた校庭への道を塞ぐことでオレの真剣さを突きつけようとしていたのだ。

「湊と榎本さんの自殺のことについて、呪いのサイトにアクセスしただとか、無理心中しただとか、死体がバラバラだとかありもしないデマを流したの君だよね?」

少し自分でも驚いていた。まさか平和主義で他人と必要以上に関わりを持とうとしない自分がここまで人に対して凄むことができたとは。

目の前にいる初めて話す女の子は小さく震えている。恐怖からか不安からか手を口元に近づけている。オレの肩くらいまでしかない身長の、小柄な女の子は確かに震えていた。

「な、なんで私なの?あの噂なんて学校中のみんながしてるのに」

戸叶さんは一向にオレの目を見ようともしない。やましい事がないのなら、堂々といえばいいのに。ここに来てまで白を切るつもりだっていうのか?どこまで……

「人の死を笑いものにして、しかも白まで切るつもりなの?馬鹿にしてるのか!?」
「ひっ……違う。だって私じゃない」
「クラスのやつが君が噂話の出どころだと言っていた!本当のことを言ってくれ!」

戸叶さんは目に涙を浮かべていた。くそっ、オレは何をしているんだろう。

「私じゃないの。確かに、あのアンケートが配られて薬師くんのクラスのこの事だって思ったから……皆が食いつく噂を流せば薬師くんの気を引けるのかもって思った」
「なっ!?やっぱり君なんじゃないか」
「違う!私は……」

戸叶さんは涙を流しながら次の言葉をはっきりと口にした。その震える声は、頬を伝う涙はとても目の前の女の子が嘘を吐いている様には思えなかった。

「私が流した噂は「2人が呪いサイトにアクセスした」っていうことだけ!無理心中だとか、し、死体がバラバラだとか……そんな話は私はしてないの!」

死体がバラバラという話は戸叶さんじゃない?

「ごめんなさい、ごめんなさい。何も自殺しちゃった2人のことを変に噂にしたかった訳じゃないの。私は、私はほんの少しでも薬師くんに興味をもってもらいたくて……ただそれだけで」
「それだけって……」

オレの感覚がおかしいのか?これもオレが鈍感だから戸叶さんの言ってる事が理解できないというのだろうか?

「だからって2人の死を笑いものにしたことに変わりはないだろ……」
「でも……こうでもしないと薬師くんに見て貰えないと思ったから」

ポロポロと零れる涙を袖で拭いながら、弱々しく戸叶さんはそう続けた。

なんだよ?オレに見てもらいたいからって、オレの友達をクラスメイトを辱める様な噂を流したって?そんなの理解出来るわけがない。
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