マサユメ~GoodNightBaby~
暑さと、湿った地面の匂いと、目の前の女の子の妄言に頭がクラクラした。理解できない。飲み込むことの出来ない、自分に向けられている感情に吐き気がする。

「よく分かった。君はオレの興味を引きたいなんて、そんなぐだらないことの為に2人の死を馬鹿にした。例え噂話に悪意があろうと無かろうと、今後一切君と関わることなんてない。それが、オレの答えだよ」
「えっ……待って薬師くん!」

朝の予鈴が鳴り響く。

「気安く話しかけないでくれるかな?これ以上君と話すことなんてないし、オレはこんな気持ちを他人に抱くこと自体好きじゃないんだよ」
「あ……ごめんなさい。ごめんなさい」

座り込んでうずくまる姿にも心は痛まなかった。オレはそんな戸叶さんを1人残して教室へと向かって歩き出す。振り返ることすら心を乱しそうで、オレはモヤモヤとした感情を抱えたままその場から去っていったのだった。

「……うっ。ふっ……うふ、うふふふふ!」

実はうずくまっていたのは涙を隠すためではなく、笑いを堪えていたからだったことなど気づくはずもなかった。

「あぁ……薬師くん。薬師くん。

私だけに向けられたあの目、蔑むような瞳に、煮えたぎる感情。あぁ、私だけしか知らない薬師くんの一面。うふふ」

恍惚の表情で笑うその瞳にはもう、涙の1粒も光ってはいなかった。バッグから取り出した化粧ポーチ。手早く目元の化粧を直す。そして、日陰に隠された狂気を内に秘めたまま教室へと向かおうとした時。

「あら?今の綺麗な女の人誰かしら……なんだか、薬師くんそっくりだった様な」

校門の先に金髪の美しい女性を見たのだった。
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