幼なじみの溺愛が危険すぎる。
ふと、館長が送ってくれたあの雑誌を思い出した。


久しぶりに空手道場にでも行ってみようかな…


高校受験で辞めてしまったけれど、辞めるときにいつ来てもいいと言われていた。


放課後、バス停で少し悩んでそのまま道場に向かった。


久しぶりに館長や師範に会えると思うと少し気持ちが明るくなった。



バスから降りて、古い門構えの前で呼吸を整えていると、


木立の奥の道場から活気に溢れた声が聞こえてきた。



一年半ぶりに道場にやってきて、緊張のせいか少し心臓がドキドキする。



道場の引き戸に手をかけた瞬間、「吉川か?!」と後ろから声をかけられた。


振り向くと、がっしりとした体つきに人懐こい笑顔を浮かべた館長が立っていた。


「お久しぶりです!」


思わず大きな声で挨拶すると、館長にバンバンと背中を叩かれた。


「吉川、相変わらずだな。元気にしてたか?」


「はいっ!この前は雑誌、ありがとうございました」


「ああ、颯大すごいだろ?みんな頑張ってるぞ。
吉川、今日は稽古つけていくか?」


「いいんですか?」



嬉しくて思わず目を見開いた。



「いいに決まってるだろう。更衣室の奥に綺麗な道着が置いてあるから適当に使え」


「ありがとうございます!」


館長に大きく頭を下げると、道場の左手にある更衣室に向かった。


更衣室に置かれた洗い立ての道着に腕を通す。


道着のごわつく感じが肌に懐かしい。



道着を着て裸足で使い込まれた木の床をペタペタと歩くと、

昔の感覚が戻ってくる気がした。


道場の引き戸を開けて、道場に一礼して師範に挨拶をする。


「吉川、久しぶりだからと言って手加減はしないからな。

稽古に参加するからには真剣に」


「はいっ」


師範に指示された場所で稽古に混じると背中に緊張が走った。



久しぶりに活気に溢れた道場でお腹から声を出す。


「エイっ!」


「ヤーっ!」


師範の"ようい…はじめっ!"の掛け声を合図に

精神を集中させて、決められた技を決められた順番で繰り出していく。


思っていた以上に体に力が入らない。



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