キミの心に届くまで
「あら、帰ったのね」
お母さんは一瞬だけあたしの方を見て、そのあとすぐに冷蔵庫から野菜を取り出した。
「うん、ただいま……」
キッチンからトントントンとリズム良い包丁の音が聞こえて、テレビからは楽しそうな笑い声が聞こえて来る。
いつもシーンとしていたリビングは、今日はやけに明るかった。
これが普通の家庭なのかもしれないけど、あたしにとっては珍しい光景で。
家に家族がいるっていう現実が嬉しいはずなのに、なぜか胸が締め付けられて涙が溢れた。