キミの心に届くまで
背中全体に郁都の温もりが伝わって、心臓がありえないくらいバクバクいってる。
こんな……後ろから抱き締められてるみたいな格好、恥ずかしすぎるよ。
「な……なに?」
緊張のあまり、声が小さくなった。
硬直したようにガチガチになって身動きひとつ出来ない。
「抱き締めたくなって……つい」
フェンスをギュッと握る郁都の手の力が強まったのがわかって、鼓動が大きくトクンと跳ねる。
「ズルいよ……そうやって、いつもそんな風に惑わせて」
肝心なことは何ひとつとして言ってくれないくせに。
近付いたと思ったら離れて行って、郁都の心には決して誰も踏み込めない。
押し寄せては引く波のように、誰の侵入も拒み続けているくせに。
この手が届くことはきっとなくて、こんなに苦しい思いをするのなら。
はっきり……きっぱり拒んでよ。
中途半端な優しさはツラいんだよ。