キミの心に届くまで


何を話したかなんて全然覚えていない。


ただ、すずに対して嫌な感情を抱く自分が心底嫌だった。



「陽良は好きな人いないの〜?美人なんだし、その気になれば誰でもイチコロだよ〜」



「あたしは……別に」



わかってる。


すずに悪気がないってことは。


ただ、さり気なく話題を振ってくれてるんだってことは。


だけどショックを隠せなくて、今すぐ逃げ出したい気分だった。


これ以上、話を聞いていたくなかった。



惨めな気持ちになるのが嫌だった。



「好きな人が出来たらすぐに教えてね〜!精いっぱい協力するからさ」



ここであたしが、自分の気持ちを言えばどうなるんだろう。



柏木君と別れて、あたしのことを応援してくれるの……?


それなら、はっきり言ってみるのも悪くないかもしれないけど。


そんなこと、あたしには言える勇気も度胸もない。


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