【完】一粒の雫がこぼれおちて。
「帰るよ、しずく。」
学校が終わって、前の席で帰り支度をまとめるアイツを呼ぶ。
アイツ、倉橋しずくを〝しずく〟と呼んだのは、敢えてのこと。
松江大地のもとから連れ出したあの日以来。
しずくの過去を聞き出して知った僕は、そう呼ぶようになった。
「ま、待ってっ、和泉くん!」
最初は僕が名前呼びをすることや、誰かを帰りに誘うということで。
クラスメート誰もが驚いていた。
それは大河内、松江弟も例外じゃなく。
そのせいで持ち上がっていた噂も一時期は勢いを増したが。
数週間の経った今となってそれは、漸く落ち着きを見せて来た。
僕がしずくの手を握っても周りはコソコソと言うだけで、最初の頃と違って何も言いに来ない。