【完】一粒の雫がこぼれおちて。





「帰るよ、しずく。」



学校が終わって、前の席で帰り支度をまとめるアイツを呼ぶ。


アイツ、倉橋しずくを〝しずく〟と呼んだのは、敢えてのこと。



松江大地のもとから連れ出したあの日以来。


しずくの過去を聞き出して知った僕は、そう呼ぶようになった。



「ま、待ってっ、和泉くん!」



最初は僕が名前呼びをすることや、誰かを帰りに誘うということで。


クラスメート誰もが驚いていた。


それは大河内、松江弟も例外じゃなく。



そのせいで持ち上がっていた噂も一時期は勢いを増したが。


数週間の経った今となってそれは、漸く落ち着きを見せて来た。



僕がしずくの手を握っても周りはコソコソと言うだけで、最初の頃と違って何も言いに来ない。





< 112 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop