【完】一粒の雫がこぼれおちて。
というか、むしろ……。
「和泉くんっ、やっぱり手離そうよ……っ。」
隣にいるしずくの方が戸惑っている。
「なんで?」
「な、なんでって……。」
頬を赤くしてうろたえるしずくを見て、可愛いなと思う。
手を繋いだだけだというのに、それであたふたとするしずくは、本当に可愛かった。
……なんて。
今までの僕じゃ絶対思わなかったことに、何だか恥ずかしくなる。
「和泉くん。」
ふと呼ばれた名前に、ハッと意識を取り戻した。
呼んだのはしずくじゃない。
「倉橋さんを、大地くんに返して。」
クラスメートの大河内。
大河内は大粒の涙を目に溜めて、強い眼差しで僕を睨みつけていた。