【完】一粒の雫がこぼれおちて。
「寒くないの?」
どれぐらい歩いたのか。
気づけば、辺りは知らない所。
空は真っ暗で、時間はもう夜中になる直前だった。
雪だけがまだ止んでなくて。
そんな中、彼は私を見つけてくれた。
「え……っ?」
「だから、寒くないの?」
綺麗な黒髪、二重の目。
手袋とマフラーをしてるのにも関わらず、鼻と耳は寒さで真っ赤になっていた。
「さ、寒い……。」
そう答えた自分に驚く。
無意識に答えたものだった。
「だろうね、そんな薄着じゃ風邪引くよ。」
バサッと背中に掛けられた何かと、体を包む暖かさ。
目の前の彼が、ぶるっと震える。
私の体を包んだのは、今まで彼が着ていたコートだった。