【完】一粒の雫がこぼれおちて。
彼の名前が〝和泉蒼空〟だと知ったのは、もっとずっと先のこと。
彼はそれから何も言わず、雪の中。
私を残して見えなくなった。
一見、冷たいのかもしれない。
吹雪とまでは言わないけど、雪が降り積もる中、女の子を1人残していくなんて。
でも、私はそうは思わなかった。
何より、居場所の無かった私にとって。
彼が渡してくれたコートは。
そのコートだけは、私の味方、居場所のように感じたんだ。
「暖かい……。」
手がかじかむほどの冬の日。
私は血相を変えた大ちゃんが探しに来るまでずっと。
その場で、そのコートに包まれていた。
もう、寒いとも。
苦しいとも思わなかった。