【完】一粒の雫がこぼれおちて。
倉橋家の家は、オレの知る家から引っ越していた。
オレが高校2年生で、しずくが中学2年生。
父親の暴力に耐え切れなくなったしずくは。
この頃から2人暮らしをしていた、オレと潤平の家へと転がり込んで来た。
手首に残る、痛々しいリストカットの傷。
これまでにしずくは何度も、自殺未遂を繰り返していた。
家出を、止めはしなかった。
父親がいない内にと、しずくの荷物を回収しに来たとき。
オレは見つけた。
1枚の写真に映る、
記憶に無い両親の満面の笑みと、
数時間前に生まれて大泣きする妹と、
妹の傍でピースをする、小さなオレ。
どうして、気付かなかった?
どうして、分からなかった?
どうして今まで、オレはしずくを愛せた?
倉橋しずくは、〝妹〟なのに。
血の繋がった、〝家族〟なのに。
「大ちゃん、好きーっ!!」
本当の〝好き〟の意味も知らずに、オレに微笑むしずくは。
暖かくて、柔らかくて。
優しくて、愛おしくて。
残酷、だった。