【完】一粒の雫がこぼれおちて。
〝末期癌〟
それがどういうものなのか、僕は本やテレビから仕入れた情報しか知らない。
どれだけ辛くて、
どれだけ怖いものなのか。
僕は知らない。
だけど、
人が死ぬということが、どれだけ悲しいことなのか……。
それは、十分に知ってる。
『会わせてやってくれ。』
元々、そのつもりだった。
籍を入れるときにでも、挨拶はしに行くつもりだった。
ただ、予定が早まった。
松江大地から充巴さんの話を聞いて、何よりも。
しずくと充巴さんを会わせたいと思った。
生きているから。
まだ、話せるから。
言葉が、伝わるから。
『初めまして、倉橋充巴さん。僕は、和泉蒼空って言います。……倉橋しずくに、恋してます。』