【完】一粒の雫がこぼれおちて。
ふと、半年前のことを思い出す。
最近ようやく名前で呼ぶようになった潤平の兄……大地としずくが、まだ付き合っていた頃のこと。
過去を思い出しただけで腹を立てる僕は、周りが思うよりずっと嫉妬深いんだと思う。
「大ちゃんっ、大ちゃん……。」
その頃はまだ、真実の〝真〟の字さえ知らないような子供で。
いや、年齢は全く変わってないんだけど。
それでも、今とは似ても似つかないほどの無知で。
……ただただ、目の前の彼女が欲しかった。
大地に呼び出されて家に向かい、しずくを奪い去って行ったあの日。
自分の背中で眠る彼女を、誰よりも愛おしいと感じたあの日。
……あの頃、僕は1度だけしずくに聞いたことがある。