【完】一粒の雫がこぼれおちて。
優しくて、落ち着く香り。
和泉くんの香り。
「ふふ……っ。」
少し気持ち悪い自分を自覚しながらも、微笑むことは止められない。
……と、そのとき。
ポケットから携帯が落ち、偶然にも石が画面をタッチして、着信画面を開いた。
今日は誰からも電話が来てない。
だから今日は“苦しい思い”をしなくていい。
……そう思っていたのに。
「え……?」
着信画面にある、沢山の彼の名前。
何10件も……。
ページ全てが、彼の名前で埋まっていた。
「どう、して……。」
そして……。
数分前の最後の着信だけ、私は出ていないのに通話になっている。
「いずみ、くん……?」
胸がざわついて、何だか嫌だった。