【完】一粒の雫がこぼれおちて。
だけど思い出す。
3丁目と言った口の悪いアイツの後ろから聞こえた、人を殴る音と数人の笑い声。
鮮明にそれを思い出した途端、もうあとはフルスピードだ。
ハンガーに掛けただけで、ソファーに放置していたパーカーを羽織って。
もう何ヶ月も乗ってない、自分の自転車の鍵を手に取る。
「別にアイツが心配だからとかじゃなくて……。そ、そう! 僕は本屋に行くんだ! 今日は疲れたから、自転車で本屋に……。」
そう言って家を出た自分に、思わず突っ込みを入れたくなる。
同じ1丁目、5分先にある本屋じゃなくて。
何でわざわざ自転車で20分先の、3丁目の本屋にまで行くんだよ。
絶対おかしいだろ。
本屋の大きさだって、3丁目より1丁目の方が大きいのに。