oneself 前編
「未来?」


少ししてから、哲平があたしの名前を優しく呼んだ。


グラスについた水滴を見つめながら返事をしないあたしに、哲平は話を続けた。


それは、あの夢が正夢になったような、哲平の思いだった。


仕事で疲れていた哲平。


大学生活を楽しむあたし。


もっと会いたかった哲平。


会う時間を作らなかったあたし。


話を聞いてもらおうと思った哲平。


聞く耳を持たなかったあたし。


そうだ。


高校の頃よりも朝が早くなって、知らないうちに寝てしまい、哲平の電話やメールを翌日にしか返さない時が、何度かあった。


会いたいと言ってくれる哲平を、何度か断った事があった。


昔なら、そんな事絶対になかったのに。


先週だって、あたしは一人でへそを曲げてて。


仕事の話をしだした哲平に、親身になって聞いてあげる事なんてしなかった。


そして昨日の出来事…


哲平の悲しそうな顔を見つめながら、あたしはここ一ケ月の自分の思いやりのなさに、うんざりとしていた。


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