oneself 前編
何を言っていいのか分からずに、あたしはただ黙って考えていた。


その時、哲平の携帯が鳴った。


あたしに断わってから、電話に出る哲平。


「あ、はい、もう着いてます」


「はい、一緒です」


「はい、じゃあ待ってます」


電話の相手とそう二言三言話した後に、哲平は電話を切った。


その会話を聞いて、不思議そうにするあたしの視線に気付いて、哲平は話し出す。


「昨日あれからな、北川と飲んでた時に、先輩と出会ってんな。その先輩に、ホストに誘われてん」


その先輩とは、高校のサッカー部の先輩で、あたしも顔と名前くらいは知っている人だった。


少しこわもての、でも彼も、良くモテていたような気がする。


昨日の夜、偶然居酒屋で出会った先輩に、哲平は愚痴を聞いてもらっていて。


そこで、ホストの仕事をして1年ほど経つその先輩は言ったらしい。


今お店のスタッフが少なくて、すごく困っているので、どうしても助けて欲しい、と。


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