oneself 前編
「え、こんなにいらんかった?」


固まってるあたしに、哲平が不安そうに、聞いてくる。


「いる!」


慌てて哲平の手から受け取って、両手でぎゅっと握りしめた。


隣で幸子が、


「あたしはこんなにいらんって〜」


とか、ぼやいてるけど。


あたしは本当に本当に、嬉しかったんだ。


哲平の学ランに付いていた、全てのボタン。


「ありがとう…」


声が震える。


緩みっぱなしの涙腺は、いとも簡単に、あたしの頬に、涙を伝わせた。


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