oneself 前編
奈美はきっと途中から、気付いてたんだと思う。


哲平の事は何も話していないけれど、あたしが悩んでいる事に。


だからこそ、木曜に久しぶりの友達に会う時も、「良かったら未来もおいで」と、誘ってくれたんだ。


この頃のあたしは、一人の時間を作らない為に、必死だった。


一人になると、考えてしまうから。


哲平が綺麗な女の人の隣に座って、楽しそうに話している姿を。


そんなあたしは、誰かと一緒にいる事、そして自分を綺麗に着飾る事で、少し癒されていた。


初めてのネイルは、缶コーヒーも開けにくいし、携帯も押しにくいしはで、ちょっとだけ後悔した。


でも、ピカピカの爪を眺めていると、何だか嬉しくもなった。


最初の頃、一人で入れなかったショップ。


今では店員さんと話しながら、洋服を選ぶようになった。


つまんない事かも知れない。


でもあたしにとっては、ささやかな、自分なりの自信の持ち方だったんだ。


哲平の仕事と、そこへ来るお客さんに対しての…


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