oneself 前編
結局、ようやく眠りについたのは、朝日が昇る頃で。


ちょうど哲平のお店は、2部の営業が始まった頃だろうか。


一週間の疲れもあり、目覚ましもかけずに寝たあたしは、暖かい日射しの中、震える携帯の振動で目が覚めた。


着信 哲平


その文字を見たとたん、冴え渡る頭の中。


「もしもし」


寝起きと気付かれないように、少し意識して高めの声を出す。


「未来、起きてた?」


「うん」


とっさにそんな嘘が出た。


それは少しでも、哲平に早く会いたいという気持ちから。


「さっきはゴメンな。今から帰るから、未来、俺ん家来れる?」


「うん、大丈夫!」


寝てたって言わなくて、良かったな。


だってそう言ってたら、哲平はあたしに気を使って、今から会おうとは言わなかったでしょう?


あたしは自分の口から飛び出た言葉に感謝しながら、哲平の家へと向かう準備を始めた。


< 153 / 245 >

この作品をシェア

pagetop