oneself 前編
幸子と顔を見合せ、その方向へ足をやった時だった。


あたしは思わず幸子の腕を引っ張って、ビルの陰に隠れた。


幸子とあたしが見つめる視線の先。


ニッコリと微笑む哲平と、お客さんらしき女性の姿。


軽く言葉を交わした後、女性が哲平の腕に絡みつく。


そのまま二人は笑い合いながら、ビルの中へと消えて行った。


ただ茫然として、動けないでいるあたしの肩を、幸子がポンポンと叩いた。


「行こっか」


「あ、うん…」


重い足取りで、待ち合わせ場所へと向かう。


「ごめん、あたしが行こうって言ったから」


幸子はあたしの顔を心配そうに覗き込み、ポツリとそう言った。


出来る事なら、あんなとこ見たくなかった。


でも、幸子が悪いんじゃない。


彼女なのに、隠れて見る事しか出来ない自分。


そんな自分が情けなくて、何故か笑えてきた。


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