oneself 前編
「大丈夫」


「ホンマに?」


本当は、大丈夫なんかじゃない。


頭の中が真っ白になるっていうのは、こういう事を言うんだと思った。


あの時、あたしと哲平の距離は、たったの数メートル。


もちろん、それを哲平は知らないけれど。


彼女であるあたしと、あたし以外の女性と腕を組む、彼氏の哲平。


仕事かも知れない。


でも、やっぱりショックだよ…


いつもは強気な幸子が、本当に申し訳なさそうな顔で、あたしを見つめる。


「うん、大丈夫」


あたしは何とか笑って、そう答えた。


幸子にこれ以上、気を使わせたくなかったから。


それを聞いた幸子は、あたしの背中をバシッと叩いた。


「もうちょっとの辛抱や!それに哲平は、あんたを裏切るような男ちゃうから!」


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