oneself 前編
哲平はあたしが不安になった時、やっぱり何とかしてくれる。


あたしは握ったままの手に、力をこめた。


そんなあたしの手を、哲平は力強く握り返してくれた。


「あ、願いごと考えとけよ!ひとつやぞ!」


あたしは笑顔でそれに答え、哲平の肩にもたれかかった。


そう、あたし達が向かっているのは、テレビでも良く紹介されている、”鈴虫寺”という所だった。


正式の名称は、妙徳山華厳寺。


秋だけ鳴く鈴虫が季節に関係なく一年中鳴いているので、鈴虫寺と呼ばれている。


その鈴虫寺が有名なのは、入口にどんな願い事でもかなえてくれる、有名なわらじばきの幸福地蔵がいて、「幸福お守り」を持つと、お地蔵さんが家まで願いごとを叶えに、歩いて来てくれるというものだった。


バスが1時間ほど走った頃。


ふと隣を見ると、寝息をたてている哲平。


その横顔を見つめながら、今日はそんな哲平の姿も、愛おしかった。


疲れてるのに、頑張ってくれたんだよね。


哲平。


あたしの願いごとは、もう決まってるよ。


この先もずっとずっと、哲平と幸せでいられますように…


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