oneself 前編
別室の襖を開けると、目に飛び込んできたのは、テーブルの上を豪華に彩る、数々の懐石料理。


「すごい…」


感動で立ち尽くすあたしに、哲平が早く座るように促す。


「乾杯!!」


ウーロン茶を一口飲むと、あたしは張り切ってお箸を割った。


「うわ〜、何から食べよう」


まず、一番手前に置かれてある、湯葉の入った小鉢に手を付けた。


「湯葉ってテレビで良く見るけど、食べるん初めてやわ」


そして次に、中身は白身魚であろう天ぷらを口に含む。


「めっちゃ美味しい」


そう言って哲平の顔を見上げた時だった。


楽しくて仕方がないあたしとは裏腹に、何か思い詰めたような顔の哲平。


そういえば、さっきからあたし一人で喋っているような気がする。


「哲平、どうしたん?」


「えっ?」


ふいに目が合うと、少し焦った様子で、哲平はあたしから視線を外した。


あたしは首をかしげながら、哲平を見つめ、哲平の口から次の言葉が出るのを待っていた。


どうしたんだろう。


お腹減ってるんだよね?


なのに哲平は、最初にウーロン茶を一口飲んでから、箸にさえ手をつけていない。


すぐに返ってくると思っていた返事はなく、哲平はさっきと同じ思い詰めた顔で、何かを考えていようだった。


たった数秒の沈黙が、急にあたしを不安にさせる。


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